第五話 孤児たちの絆

「貴方、お名前は?」

「……」


「ビル! 皇女殿下のご質問にお答えしろ!」

「……」


「ビル君というのね。年はいくつ?」

「じゅう……に……」


「十二歳?」

「うん……」


 十歳くらいかと思いましたが、栄養が摂れていないせいで成長が遅れているのかも知れません。元から体が小さいだけとも考えられますが。


「貴方がしたこと、悪いことだとは分かっているのですよね?」

「うん……」


「では、どうすればもう繰り返さなくてよくなるのかしら?」

「意味ないよ」

「はい?」


「だって俺、死刑なんだろ?」


 彼の言葉遣いを正そうとしたジミルさんを、私は手を振って制しました。子供だからと許されるわけではありませんが、今はそれを責める時ではありません。


「俺が帰らなかったらアイツら全員飢え死にだ。でも、もういいよ。大人たちは何もしてくれない。この国も……俺たちは生まれてきちゃいけなかったんだ」

「なっ!」


「貴族や金持ちは毎日美味い物を腹いっぱい食って、まだ食えるのに余ったら平気で捨てる。それをあさったら嫌というほど殴られるんだ。そんなのおかしいよ。


 金だってそうさ。俺たちみたいなのが金貨持ってると怪しまれるから、大人に両替してもらおうとすると手数料とか言って銀貨二枚しかくれねえ。それでどうやって生きていけって言うのさ!」


「ちょっと待って下さい。貴方が盗んだ金貨を銀貨二枚で買い取る大人がいるのですか?」

「ランスってヤツだ。アイツは俺たちの親代わりをしてくれてたミーヨ姉ちゃんもどこかに売り飛ばしやがった」


「なんですって!? イーソン殿、このことは?」

「は、初耳です」


「ダロワ殿!」

「西に一キロ、ドムールトイウ酒場ニイル。一緒ニ呑ンデイル男三人モ仲間ダ」


「皇女殿下?」


「何をしているのですか! 聞いた通りです! さっさと捕らえに行きなさい!」

「「「「はっ!」」」」


 イーソンさんとジミルさん以外の四人の警備兵たちが、慌てて詰め所を出ていきました。


 とんでもない男たちです。金貨一枚が銀貨二枚なんて、五十分の一ではありませんか。


「ビル君、俺たちと言いましたが、他にも貴方のような子供がいるのですか?」

「いるよ。だけどミーヨ姉ちゃんが連れていかれてからは皆散り散りさ。死んじまったヤツもいるかも知れねえ」


「全部で何人くらいいるのかしら?」

「俺の仲間は四人、俺を入れて五人」


「ジミルさんは彼らのこと、把握されてますか?」

「へ? あ、は、はい! 居場所でしたら把握しております!」


「では全員揃ったら、私の領主邸まで連れてきて下さい」

「皇女殿下の、ですか?」

「そう言いましたわよ」


「は、はい! 申し訳ありません!」


「明日までにお願いしますね。そうすれば貴方の私に対するこれまでの態度や言動は不問と致します」


「は……ははっ! ではすぐに!」

「ええ、頼みましたわ」


 詰め所を飛び出していく彼の背中を見送った後、私は少し屈んで再びビル君に向き合いました。


「ビル君、私が貴方たちを保護します。よろしいかしら?」

「保護って?」


「私のお邸の屋根裏部屋が空いてますので、そこに住んで下さい。食事も寝床も用意します。

 その代わり昼間は下働き、夕食後はお勉強をしてもらいます」


「勉強?」


「将来、貴方たちが困らないようにです」

「ほ、本当かい!?」


「ええ。ミーヨさんも一緒ですわよ」

「えっ!? ミーヨ姉ちゃんも!?」


 すでに彼女はダロワ殿に見つけて頂いておりました。ランスから彼女を買い取った違法な奴隷商が、娼館に送る準備をしているとのことです。救出ついでにその奴隷商を叩き潰しましょう。


「ミーヨさんは一足先に私が邸に連れて戻ります。ビル君は明日、皆さんが揃ったら連れてきてもらいなさい。イーソン殿、頼みましたわよ」

「かしこまりました」


「絶対に……絶対にミーヨ姉ちゃんを助けてくれよな!」

「ええ。その代わり、お邸ではしっかり働いてもらいますわよ」

「分かった!」


 それから私とダロワ殿は奴隷商の許に赴き、念のため手順通りに自首を勧めました。ですが抵抗されたのでダロワ殿が取り押さえ、警ら中の警備兵に引き渡したのです。もちろん警備兵にはこちらの身分を明かしました。


 違法奴隷商は自首してもしなくても死罪ですが、自首すれば拷問が免除されるのです。彼はこちらが二人ということで、逃げられるとでも思ったのでしょう。


 愚かなことです。


「貴女がミーヨさんですね?」

「はい……あの……?」


「ビル君に頼まれて貴女を助けにきました。怪我はありませんか?」

「ビル!? ビルは無事ですか!?」


「ええ、ご心配なく。貴女とビル君、それにお仲間四人は私が引き取ることになりました」

「え?」


「明日には彼らと会えると思います。貴女はひとまずこれから私のお邸に来て頂きますわね」

「あの……貴女様は一体……?」


「あら失礼。私の名はシャネリア。この国の皇女ですわ」


 目を見開いて放心状態になった彼女の手を引き、私たちは領主邸に戻るのでした。


『とんだ散策になったな』

「そうですわね。ダロワ殿、また来ましょう」

『うむ、よかろう』


 後で聞いた話ですが、ランス一味も無事捕らえられたそうです。これでより一層、帝都の治安がよくなるように祈ることと致しましょう。

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