第五話 雪のような肌の美少女
『客だ』
赤竜レシリードロスの突然の訪問を受けた翌日、またもやダロワ殿が予定のない来客を告げました。再びあの赤いのがやってきたのでしょうか。
『いや、白いのだ』
「白い? まさか白竜とは仰いませんわよね?」
『そのまさかだ。ついてこい』
「はあ……」
さすがに二回目ですから、私も取り乱したりはしません。昨日と同じようにダロワ殿について邸の外に出ると、白いワンピースを身に纏った雪のような肌の美少女が、スカートの裾をつまんで優雅に
見た目の年齢は私と同じくらいでしょうか。
「お初にお目にかかります。私は白竜の女王、シルスキーノエルと申します。黒竜の長ヴァスキーダロワ様、麗しき聖女様、以後よろしくお願い致します」
聖女様呼ばわりはもう慣れましたが、麗しきなんて枕詞はさすがに照れますわね。
「シルスキーノエルハ随分ト人間ノ言葉ヲ
「私もヴァスキーダロワ様と同様に、普段から人間の姿で生活しておりますので」
「シルスキーノエル……女王陛下はどのようなご用件でこちらに参られたのでしょう?」
「麗しき聖女様、私のことはどうぞノエルとお呼び下さい」
「そ、そうですか。ではノエル陛下……」
「敬称も無用でございますよ、麗しき聖女様」
「なら私のこともシャネリアと呼んで下さい」
「とんでもありません! 麗しき聖女様のお名前を口にするなど、恐れ多いことにございます」
ダロワ殿には初めから呼び捨てにされておりましたけど。
「でしたら私もシルスキーノエル陛下とお呼びしようかしら」
「それは……」
「イツマデ不毛ナ会話ヲ続ケテオルノダ」
「「不毛ではありません!!」」
「フグッ!? ソ、ソウカ……スマヌ……」
結局私たちはそれぞれシャネリア、ノエルと呼び合うことで落ち着きました。
ところで彼女の飛来の目的は、ヘイムズオルド帝国が近々こちら側に攻め込んでくるのを知らせることでした。そのこと自体はすでに赤竜レシリードロスから聞かされておりましたが、やはり標的はモートハム聖教皇国となったようです。
「いつ頃来るかはご存じですの?」
「赤竜たちはすぐにでも仕掛けたいようなのですが、人間の占領部隊とそれを運ぶ船を用意する必要がありますので、早くとも一年は先になるでしょう」
「そんなに先なのですか? 私はてっきり一カ月以内には攻めてくるものと思っておりました」
「我々竜族ニトッテハ、人間基準ノ一年ナド
「なるほど、そういうことでしたの」
「あの、一つ気になったのですが」
「なんでしょう?」
「私が知る限りですと、ヴァスキーダロワ様は小さな公国においでのはずだったのですが、ここは他国ではないのですか?」
どうやらこちらに北の情報がほとんどないのと同様に、北にもカラクマラヤ山脈を隔てたこちら側の情報は伝わっていないようです。
無理もありませんわね。北と南では商人の往来さえないのですから。
そこで私は現在の勢力図を簡単に説明しました。
「ではシャネリアの国は、ヴァスキーダロワ様の力を借りずに王国や連合王国を統一したというのですか?」
「そうですわね。ダロワ殿を始め、黒竜たちは直接戦闘には参加しておりませんわ」
威嚇と無条件降伏勧告にはお力をお借りしましたが。
「しかも民にはほとんど犠牲を出さなかったと? ヘイムズオルドのやり方しか見ておりませんから想像もつきません」
「それはどのようなやり方なのでしょう?」
「とにかくまずその国の首都を壊滅させます。王城は破壊され王都は焼け野原にされてしまいます」
「えっ!? それでは多くの民はもちろんですが、国王や主要貴族も死んでしまうのではありませんか?」
「その通りです。国としての機能を麻痺させ、自分たちの支配下に置くというのがあの王のやり方ですね」
「ですがそれでは民たちは従わないのでは……」
「従わなければ待っているのは死のみですから。そして北側はすでに私のいるミレネー王国以外、全てヘイムズオルドに飲み込まれております。逃げ場はありません」
ミレネー王国は出来る限り難民を受け入れていましたが、すでにそれも限界とのことでした。そもそも最北端の地であるため、国自体が豊かとは言えないのだそうです。
「ヘイムズオルドの王は大陸の南側も手に入れようと、何度もミレネーに同盟を求めてきておりました。私たち白竜族と青竜族、それに赤竜族を使って、ヴァスキーダロワ様たち黒竜族を滅ぼすつもりだったようです」
「ホウ。我ラニ牙ヲ剥コウトシテイタト申スカ」
「もちろん白竜族も青竜族も、あの赤竜族でさえ黒竜族を相手に戦う意思などありません」
「ダガ人間ノ王ハソウ考エタノダナ?」
「はい」
「シャネリアヨ」
「はい」
「ヘイムズオルドヘ赴クゾ」
「はい?」
「愚カナ人間ノ王ヲ滅ボシニ参ル。シルスキーノエルヨ、王ノ許ヘ案内イタセ」
「だ、ダロワ殿、お待ち下さい!」
ダロワ殿にしてみれば、自分たちを滅ぼそうとしたヘイムズオルドの王は滅すべき相手なのでしょう。ノエルの話を聞いた私も、それに反対するつもりはありません。
ですが現在大陸の北側は、ミレネー王国を除いてヘイムズオルド帝国が支配しているのです。その王をいきなり殺してしまっては大混乱に陥ってしまいます。
「王を倒した後、あちらをまとめる者が必要です」
「ミレネーノ王ニ任セレバヨイデハナイカ」
「ヴァスキーダロワ様、あの国の王にそこまでの求心力はありません」
「知ッタコトデハナイ」
「ダロワ殿!」
私は必死になって、父上さまに相談するので少しだけ時間が欲しいとお願いしました。すると私の望みならばと、拍子抜けするほどあっさり了承して下さったのです。
「ノエル、申し訳ありませんが、数日の間だけ私の邸でお待ち頂けませんか?」
「シャネリアの父上さまはこの国の王なのですね?」
「ええ、そうですけど」
「でしたら私も連れていって下さいませんか?」
こうして私はダロワ殿とノエルを伴って、昨日に引き続き父上さまに会いに行くことになったのです。
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