第四話 帝王の企て
「ハジめまして。コクリュウのオサドノとおミウケイタします。ワタシはレシリードロスとモウします。イゴおミシりおきを」
「ここに何をされに来たのですか?」
「コムスメ……いや、これはオドロきました。セイジョサマではありませんか。シツレイのダン、おユルしクダさい」
「せ、聖女様?」
そう言えば前にダロワ殿にも言われたような記憶がありますわね。
「シャネリアノ質問に答エヨ」
「そうでした。ヘイムズオルドをオサめるニンゲンのオウが、ミナミのチをホッしておりまして、キョウはそのごアイサツにマイったシダイです」
「戦争を仕掛けてくるということですか!?」
「いえいえ、メッソウもありません。さすがにコクリュウドノがおられるクニにセめコむなどと、ムボウはことはイタしませんよ。それにここにはセイジョサマもおられますし」
「ではやはりベッケンハイム帝国に……?」
「セイジョサマ、モウしワケありません。ワレワレにはニンゲンのクニのナはよくワかりませんので」
「それなら何故、ここに来られたのですか?」
「コクリュウドノがおられるこのクニには、セめコむイシがないことをおツタえするためです」
なんだか似たようなやり取りが以前にもありましたわね。あの時は連合王国軍がやらかしてしまったわけですが、ヘイムズオルドの赤竜はどうなのでしょう。
「ダガ我ラノ庇護下ニアル国ガアル。ソコニ攻メ入レバ、貴様ラガ滅ブコトニナルゾ」
「なんと! それはもしやサキほどセイジョサマがオッシャられた、ベッケンなんとかというクニですか?」
「ベッケンハイム帝国ですわ」
「これはイソいでモドってシらせなければ! ゴメン!」
赤竜のレシリードロスは、慌てたように踵を返して立ち去っていきました。何だか
この後ダロワ殿から聞かされたのですが、本来なら彼は我が国に飛来した時点で、縄張りを侵した罪で黒竜に殺されるのだそうです。
それが成されなかったのは、敵意がないから話を聞いてほしいと念を送ってきたからとのことでした。
「それにしても……やらかしましたわね」
『やらかしおったな』
ベッケンハイムが黒竜の庇護下にあると知ったヘイムズオルド帝国は、攻め込む先をモートハム聖教皇国に絞ることでしょう。
あの国は黒竜が護ることにはなっておりませんが、赤竜が戦争に絡んでくれば、民衆は一方的に虐殺されることになります。
他国の民とは言え、それを私が悲しまないはずはありません。つまり、ダロワ殿が黙って見過ごすことはないということです。
そしてかの赤竜がやらかしたのは、我が国に攻め込む意思はないと言ったものの、だから見逃せとの要求をしなかったところにあります。
それにしても、ヘイムズオルドの王が大陸の南側を狙っているというのは本当だったようです。どれほど強欲な方なのかしら。
とにかく父上さまに早く知らせなければなりませんわね。
◆◇◆◇
ヘイムズオルド帝国は、メリカノア大陸の北側をほぼ手中に収めていた。残るは最北端のミレネー王国のみだったが、この国には白竜と青竜が住んでいるため手出しが出来ない。
帝王グロヘイズ・モーゼル・ヘイムズオルドはこれまで何度かミレネーに同盟を求めたが、その度に赤竜を擁する帝国とは相容れないとして拒否されてきた。
「白竜と青竜、それに赤竜が揃えば、南の黒竜とて敵ではないであろうに。忌々しいミレネーめ!」
かつて彼は大陸南をも支配するために、軍事同盟を持ちかけて白竜と青竜を参戦させようとしたことがあった。その際に得た情報が黒竜の存在だったのである。
黒竜がいる南に攻め込むなど愚の骨頂と、一笑に付された屈辱は今でも忘れられない。
それならば黒竜を味方につけて大陸全土を我が物にしようと目論んだのだが、すでに取るに足らない小さな公国に身を置いているというではないか。
だが、そこで妙案が浮かんだ。南には巨大な帝国と宗教国家があると聞いた。まずはそのどちらかを手に入れ、それを足ががりとして公国を飲み込み、黒竜を我が物とすればよいのだ。
黒竜さえいれば大陸南はおろか、ミレネー王国の白竜や青竜さえも従わせることが出来るだろう。ついにヘイムズオルド帝国はメリカノア大陸全土に覇を唱えるというわけだ。
「グロヘイズサマ、ただイマモドりました」
「レシリードロスか。首尾はどうであった? 黒竜には会えたのか?」
「はい、アうにはアえたのですが……」
「どうした、問題があったならさっさと申せ」
「ベッケン……フルム? というクニはコクリュウのヒゴカにあるようです」
「ベッケンハイム帝国のことか?」
「そうです。そのベッケンです」
「庇護下にあるということは、攻めるのはマズいな」
「コクリュウのオサのクニにもセめコめませんよ。ワレワレもシにたくはありませんから」
「とすれば宗教国家の方か」
「いつもドオりシュトというのをハカイすればよろしいですか?」
「いや、宗教国家相手にそれは悪手となろう。奴らの結束は固い。上を潰すのではなく、上を従えなければならん」
「とイいますと?」
「トップの教皇を殺しても、国民は信仰の名の下に恐れることなく立ち向かってくる」
さらに宗教国家の面倒なところは、信者が国外にも多数いることである。だからたとえ本国を力で捻じ伏せたとしても、他国の信者がいる限り完全な支配は難しいと言わざるを得ない。
「だが教皇を脅して余に従わせれば、信者もろとも手に入ったも同然なのだ」
「いっそのこと、ハムかうモノはミナゴロしにしてしまえばよろしいのでは?」
「そんなことをすれば誰が税を納めると言うのだ? 話にもならん。バカバカしい」
「ではどのようなサクでマイられるのですか?」
「村を一つ焼き払え。それでまず最初に脅しをかけ、屈せずば少し大きな街を焼き払う」
「マホウをツカうモノや、ワイバーンなどはどうされますか?」
「殺せ。我が帝国には無用だ」
「かしこまりました」
帝王に頭をさげたレシリードロスだったが、それは形だけ人間の作法に従ったまでに過ぎない。彼ら赤竜にとっては人間などどうでもいい存在なのである。
ただ、殺すのは楽しかった。逃げ惑う者たちを追い詰め、焼き尽くす快楽は何物にも代えがたい悦びである。
赤竜族の夢は、全ての人間を炎に包むこと。だが――
「おっと、コクリュウのクニのニンゲンはさすがにムリですね。セイジョサマもおられますし、あそこだけはミノガすしかないようです」
帝王の前を去ってから、彼はそう呟いて結界の中に身を潜めるのだった。
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