第八話 新生コートワール帝国
「父上、連合王国軍副将を捕らえて参りました」
「ウラミス、大儀。おお、アルバート殿であったか」
コートワール公国城の謁見の間です。壇上の玉座には父上さま、二人の兄上さまたちと私はその横に並び立っていました。そこへ、アルバート殿を衛兵に任せたウラミス兄上さまも加わります。
国境から公国城までは馬車で半日ほどの距離しかありません。つまり我が城とジルギスタン王国城は目と鼻の先にあると言えるのです。
ですから国境付近の状況は、すでに早馬によって私たちの耳に届いておりました。
「アルバート殿、
「ライオネル大公殿下、これはどういうことですか!?」
「これは、とは?」
「
「異なことを。先に申し伝えたはずだ。わずかでも国境に軍を進めた場合はこれを殲滅すると」
「我々はラカルトオヌフに兵を進めただけです!」
「聞けば全軍が一斉にこちらに向いたとのことだが? であれば我が方からは連合王国軍が国境に進軍してくるとしか見えんだろう」
「ですが……!」
「約定を
「
「父上さま」
「どうした、シャネリア?」
「黒竜たちから連合王国のうちマルス、デトリア、ワスク、ザイザルの四国が無条件降伏に応じたとのことですわ」
「だそうだ、アルバート殿。残るは貴殿のセイカルとエドガンの二国だったか」
「やはり殿下は最初からこれを……」
「はて、何のことかな? それより貴殿も早々に国元に戻り、無条件降伏を受け入れるように進言された方がよいぞ。もっとも無事に帰国出来るかどうかは分からんが」
「くっ……」
どうやら最初に彼が国境を越えられたのは、密かに父上さまが越境を見逃すように指示をしていたからのようです。
確かにそうでないと合点がいきませんわね。封鎖している国境を越えさせたとあっては、検問所の方たちが罰せられないはずはありませんもの。
今回の公国軍の動きは電光石火の如くでした。父上さまは連合王国軍がこちらを向いたことが引き金のように申されましたが、実はエリック王子がジルギスタン王国の王位を
たなぼたのように連合王国軍がやらかしてしまったようですが。
ともかくそれを引き金に黒竜一騎にワイバーン二騎の六編隊は、無条件降伏勧告を行うために六つの小王国に向かいました。
そのため黒竜が舞い降りた小王国は、要求に従って次々と無条件降伏に応じざるを得なかったというわけです。
そして隣国のジルギスタン王国では、我が国が誇るワイバーン部隊により連合王国軍殲滅作戦が展開されました。
王都ラカルトオヌフには戒厳令が敷かれていたため市民にはほとんど被害を与えることなく、対空装備を持たない約一万の軍勢は、ワイバーンの吐く炎に抗うことさえ出来ずに焼かれたのです。
残ったのは王城にいたエリック王子と王妃、それに三人の王女と抗議に来たアルバート殿、あとはわずかな兵士のみでした。
そのアルバート殿は先ほど唇を噛みしめながら去っていきましたが、今度は無事にマルール河を越えられるかどうか。
当然ジルギスタン王国にも無条件降伏勧告がなされ、
◆◇◆◇
「エリックだったな」
「ライオネル殿、これはどういうことか!?」
連合王国軍壊滅から一夜明けて衛兵に連行されてきたのは、ジルギスタン国王となった元第二王子のエリック殿と元王妃、それに三人の王女です。
余談ですがストラド子爵家令嬢のアンリ殿は、兵士たちに手籠めにされる前に舌を噛み切って自害したとのことでした。
「警告を無視したのはそちらだったはずだが?」
「我々に貴国への進軍の意思はなかったぞ!」
「すでに聞いている。だが、エリックよ」
「なんだ!?」
「進軍の意思がないのは今だけだったのではないか?」
「なにを……?」
「貴殿は連合王国を一つにまとめ帝国とし、その上で我が国をも掌握するつもりであったのだろう?」
「そ、それは……」
「父上さま!?」
驚きました。これは私にも想像出来なかったことです。まさかエリック殿がそのような野心を抱いていたとは。
それが事実だということは、動揺を隠せなかった彼の表情で分かりました。ですが、この程度のことで顔色を変えるとは情けないとしか言いようがありませんわね。
ジルギスタン王国の王族にはまともな人材はいなかったのでしょうか。
もっともいれば今回のようなことにはならなかったでしょう。詮ないことを考えてしまったようです。
そこへ再び黒竜たちから念話が届きました。
「父上さま」
「うん?」
「エドガン王国、セイカル王国に向かった黒竜たちから、二国も無条件降伏に応じたとのことです」
この二国は初め無条件降伏に難色を示し、王権や領地の安堵など、様々な条件を挙げておりました。ですが父上さまはそれらを全て一蹴し、受け入れなければワイバーン千騎が空を黒く染めると脅して、結局無条件降伏に至ったというわけです。
「そうか!
「ええ」
「さて、貴殿も聞いた通りだ」
「くっ……」
「これで大陸の南側、チルフリス河とユリアノス河に挟まれた地は全て我が国が掌握した。以降はコートワール帝国、とでも改めようかのう」
「それはいい!」
声を上げたのはウラミス兄上さまです。
「そうなると父上はライオネル皇帝陛下、ということになりますね」
「「おお!」」
ノウル兄上さま、スコット兄上さまも嬉しそうです。さすがにこの流れには驚かされましたが、もちろん私も嬉しく思います。
「エリックよ、貴殿の夢は私が引き継いでやろう」
「ふん! 好きにしろ!」
この後エリック殿は戦犯として処刑され、ジルギスタン王国の王妃と王女たちからは王族の身分を剥奪。教会で修道女として余生を過ごすこととなりました。
そしてこれより三カ月の後、父上さまの盛大な戴冠式をもって、公国は正式にコートワール帝国へと生まれ変わることになるのです。
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