次は私のイベントなんだぞ

 わたしはお父様、お母様と領地防衛に関する話を詰めた後、自分の部屋に戻っていた。


 今、部屋にいるのはわたしだけ。扉の外にも誰もいない。

 いつもなら部屋の外にはわたし付のメイドであるサーラがいるはずだけど、サーラはそもそも屋敷にすらいない。彼女にはを任せているからだ。


 その仕事とは、今日ミランダに依頼した魔道具製作に必要な素材、道具集めだ。

 わたしはてっきり街にある商会に調達を依頼して後は待つだけだと思ってたんだけどねぇ……


 実は、屋敷に帰る前にサーラの知る素材を扱う商会に出向いてみた。でも、タイミングが悪かったのかどの商会でもミランダが探してる素材を切らしていた。

 しかも入荷がかなり滞っているらしく、次回の入荷予定は未定らしい。


 ……まあ原因は分かってるけど。


 ダーナプレタ商業連合が起こした一連の事件の影響が、こんなところでも表れているのだ。

 それもあって領内にある商会を全て回ったけれど、どこも状況は似たり寄ったりだった。

 いくつかの素材道具は確保できたものの、まだ足りていないものも多くある。


 さすがにそれを聞いた時は血の気が引いた気分だったわ。

 あの時はどうしてもという程ではなく、かなり欲しいという程度の気持ちだった。


 だけどさっきの執務室での話を経てその考えは、どうしても確保したいに変わっていた。というのもお父様から詳しい現状を聞き、改めて自分なりに情報を整理し先の展開を推測してみた。

 その結果、かなりの確率であの魔道具の出番がありそうと判断したのだ。アレがあるのと無いのとでは取れる手段も、領地への被害状況もかなり差が出る。


 まあ、もちろんあくまでわたしの推測だからその通りに進むとは考えていないけど。

 それでも確保したいという気持ちに変わりない。


 しかしそこで自分が素材を調達してくると名乗り出たのがサーラだった。

 現状、商会が頼りにならないと判断したサーラはだったら自分達で集めれば済む話だと考えた。

 

 それには、いくら私でも無茶だと止めた。

 ミランダが依頼した素材の中には、危険な魔物から採取される素材も幾つか含まれていた。サーラが以前冒険者をしていたのは知っていたけれど――自分のメイドを好き好んで危険な場所に赴かせたいとはこれっぽっちも思わないわ。

 だけどサーラも強情で、頑として自分の意見を譲らなかった。


 わたしが無ければ無くても別の方法を考えると言えば「お嬢様の考えなのですから、必ず必要になります。確保しておくにこしたことはありません」と返される。


 結局、サーラの勢いと他に確保の手段が思いつかなかったのもあり、お願いすることにした。

 今となっては頼んでおいて良かったと本当に思っているけれど。


 まあそれでも心配なものは心配だったから、は持たせておいた。

 アレを持っていれば、命に関わるような危険はないはず。後はサーラが無事に帰ってくることを祈りながら待つだけね。


 それにしても『お守り』を受け取ったときのサーラの表情が引き攣って見えたのは、何故かしら?


 身に着けているだけで安全が確保できるとても良い物なのに。元々はガチャガチャから出てきたアイテムだったけど、あたしが少しだけ改良して安全性を増した優れものなんだから。

 あくまでマイナーチェンジだったから大幅に効果を上昇させる事は出来なかったのが唯一悔やまれる点だけれどね。

 

 ……もう少し時間があれば倍ぐらいは効果を引き上げたのに。

 

 まあ、それは次の機会に遊ぶ改造ことにするわ。


 ともかく、今わたしは自分の部屋で珍しく――本当に珍しく一人になっていた。


 何時の頃からか、わたしが部屋に籠っている間は必ずお目付け役と称する監視の目が付けられていたので、何の気兼ねも無く自分の部屋にいるのは本当に久しぶり。


「さて……何をしようかしらねぇ」


 計画の改善点の洗い出し? それとも魔物の大移動に関する再計算?


 ……いいえ、それよりも先にやることがあるわね。


 わたしは自分のステータス画面から、ガチャガチャのスキルを発動させる。

 今回のことと直接関係は無いけれど、もしかすると役立つかもしれないから確かめておきたいと思っていたのよね。


――――――――――――――――――――

スキル:ガチャガチャ

使用可能ガチャガチャ

 ・魔石ガチャガチャ

 ・毎日一回無料ガチャガチャ

 ・【期間限定】ピックアップガチャガチャ(魔石)

――――――――――――――――――――


 いつも通り並んでいる『魔石ガチャガチャ』、『毎日一回無料ガチャガチャ』の他にもう一つ――『ピックアップガチャガチャ(魔石)』と書かれた項目が存在している。

 海の神様関連のアイテムを排出したあのかなり類のガチャガチャだ。

 

 特に今朝ミランダの家でガチャガチャを使ったときと何ら変化はない。

 じゃあ何が気になったのかというと、それは昨日聞こえてきた『』が関係している。


 王都にいるときにも聞いた、ピックアップが始まるのを知らせたあの声と同じもの。

 わたしはその時に聞こえてきた内容を思い出す。


――――――――――――――――――――

スキル<ガチャガチャ>からのお知らせです!

 

毎度<ガチャガチャ>をご愛用いただきありがとうございます!

先日から実施していました第一回ピックアップ期間が終了間近となりましたのでお知らせいたします。終了日時は明日! ピックアップが開始されたのと同じ17:00をもって終了とさせていただきます!

期間中に引いたアイテムを基準としたポイントについては後日計算し、その分の報酬を<ガチャガチャ>に送らせていただきます!


そして! お待ちかねの次のピックアップ期間や内容に関してですが――現在行われているものが終了するのと同時に新しイベントを開催いたします! 

詳しい情報はその時に改めてお知らせしますので、お楽しみに!


それでは良きガチャ日和を!

――――――――――――――――――――


 そう、今日の17:00でピックアップ期間が終了するらしいのだ。

 最初に始まった時に『期間限定』と言っていたから、いつかは終わると分かってはいたんだけど……いかんせんその期間を明言されてないのよ。

 お陰でいつ終わるのか分からずにやきもきしていたところに、今回のこの『お知らせ』。


 しかも新しいピックアップを始めると来ている。

 ……こんなの待ちわびない方が無理よね。


 そしてもう夕暮れが見え始めている。この時期でいえばもうそろそろ17:00になる頃合い。

 恐らく、もう少し待っていれば新しいお知らせが――


 ――ピンポーンッ


 来た。


――――――――――――――――――――

スキル<ガチャガチャ>からのお知らせ!


毎度<ガチャガチャ>をご愛用いただきありがとうございます!

ただいまの時刻をもって海の関するアイテムの排出確率が上昇する<ガチャガチャ>初のピックアップ期間を終了いたしました!

クレハ様におかれましては、何度もピックアップガチャガチャを回していただきありがとうございます!

排出されたアイテムのレア度を基準とした取得ポイントを計算しました結果、クレハ様はこちらが想定していた最大ポイントまでポイントを集められました! おめでとうございます!

豪華景品をご準備していますので、また後日のお知らせを楽しみにお待ちください!


そしてそして!――ついに<ガチャガチャ>第二回目のイベントを開催することとなりました!

前回は期間限定のピックアップ。

そして今回のイベントは……名付けて『相棒を得よう! ドキドキ従魔ゲットキャンペーン!』!!

詳細につきましては後程<ガチャガチャ>よりご確認下さい!

ここでは簡単な説明を――


今回のイベントは自分だけの従魔を得ようという主題のもと実施されるイベントとなります!

このイベント限定ガチャガチャを回すと、なんとアイテムではなく従魔を召喚出来る『召喚石』を手に入れる事が出来るのです!


これを利用してご自分の相棒ともいえる従魔と出会って見ませんか?


それでは良きガチャ日和を!

――――――――――――――――――――


「い、いつにも増して長文だったわね……それにしても『従魔』に『召喚石』ね」


 思い出すのは王都の学園で出会った人たちのことだ。

 召喚魔法を教えているサン先生と、事故を起こしてしまった生徒のリオネル。


「気のせいだと思ってたけど……やっぱりこのスキルってわたしの身近に起こったことに引っ張られてないかしら? まあ別にいいんだけれどね。それで不利益を被ったわけでもないし」


 しかし、このタイミングで従魔に関するキャンペーンがやって来るとはタイミングが良いやら悪いやら。

 魔物の大移動が起こっている時に戦力の拡充に繋がりそうな点については良い。ただし、あたし一人だけというタイミングが悪い。

 

 従魔ということは、召喚するのは魔物やそれ類する存在に違いない。

 サーラがいるときならまだしも、あたし一人だけという状況ではとてもじゃないけど試そうとは思えない。


「……とりあえずイベントの詳細を確認してから判断しましょうか」


 『お知らせ』でも言っていたように詳細を確認する為に<ガチャガチャ>を発動する。


 するといつもの見慣れた画面に変化があった。


 何というか……画面一杯にちょっと可愛くデザインされた動物たちが描かれて、それがちょこちょこと動いているのだ。今までの背景を無地とするなら、今のコレはイベント特別仕様ってことかしら?

 でも前のピックアップイベントの時はこんなの無かったけど……なんで急にこんな風になったのかしらね?


「ちょっと可愛いじゃない……」


 特にこのウルフ系の魔物に似てる――なんて言ったかしら? 前に本で読んだんだけど、確かキャット系だったっけ?   

 その魔物に似てる動物が特にいい。戦力的な意味ではちょっと……という感じでも、自分の従魔にするんだったらこういう感じの魔物がいいわね。


――――――――――――――――――――

スキル:ガチャガチャ

使用可能ガチャガチャ

 ・魔石ガチャガチャ

 ・毎日一回無料ガチャガチャ

 ・【イベント開催中!】従魔ガチャガチャ(お知らせがあります!)

――――――――――――――――――――

 

「なるほど、これね――」


 従魔ガチャガチャと書かれたそれを出そうをすると、ガチャガチャが出現すると同時に一枚の手紙がひらひらと舞い降りてきた。


――――――――――――――――――――

イベント『相棒を得よう! ドキドキ従魔ゲットキャンペーン!』について


この度開催されることとなったイベントの詳細について記します。

……

――――――――――――――――――――


 数枚に渡る手紙に長々と書かれていたので、重要な部分だけ抜き出して整理する。


 一つ、従魔ガチャガチャではカプセルの色によるレア度の違いは存在しないこと。

 一つ、カプセルの中にある『召喚石』には呼び出す従魔の絵が書かれており使用することでその従魔を呼び出す事が出来る。

 一つ、呼び出された従魔と契約を結ぶかどうかは呼び出した側が自由に決める事が出来る。(※従魔側から拒否されることは無いが、契約後もその限りではない)

 一つ、契約後は召喚石を使わずとも呼び出すことが可能になる。

 一つ、従魔の中にはを揃えることでしか召喚出来ない従魔も存在するので注意すること。

 一つ、契約数に制限は無い。


「ふ~ん……面白いわね。従魔も気になるけど召喚石の仕様も気になる――さて、どうしようかしらね?」


 お知らせを呼んだことで再度変化したスキルに目を向ける。

――――――――――――――――――――

スキル:ガチャガチャ

使用可能ガチャガチャ

 ・魔石ガチャガチャ

 ・毎日一回無料ガチャガチャ

 ・【イベント開催中!】従魔ガチャガチャ(初回10連無料)

――――――――――――――――――――


「お母様たちに相談しましょう。でないと、後が怖い……」


 取り合えずついさっき出てきたばかりだけど、もう一度執務室を訪問することになりそうだ。

 そんなことを考え早速出向こうとすると、ドアをノックする音が聞こえてきた。


「どうかしたの?」


「おや、一回目で気付かれましたか。もうそろそろでお夕食の時間になりますので、少し早いですがお声掛けに参りました」


「……失礼ね。ちゃんとノックぐらい聞こえてるわよ」


「ほほっ、それなら良かったです。では食堂でお待ちしております」


 そう言って執事のダグラスは去って行った。


 失礼な物言いに強く言えないのは……前科があるから。 

 しょうがないじゃない。集中してるとノック程度の音なんて聞こえないのよ……


 それよりも、ちょうどいいわね。


 わざわざ二度手間にする必要もないし、夕食の時に相談するとしましょう。


 あたしは好奇心からガチャガチャを回しそうになる指を押し止めながら、食堂に移動した。

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