魔物使いも、いいもんだぞ
領地に戻ってきて早3日が経った。
あの後は領地の警備隊に盗賊たちを引き渡して、無事に家に帰ってくる事が出来た。聞いた話ではあの盗賊たちは、カートゥーン領の前にも別の領地で暴れていた盗賊団だったらしい。懸賞金までかけられていた連中で、お母様は思わぬ収入が入って来たことに喜んでいた。
領地に戻ってきてからはいつも通りの日常に戻って生活している。お父様は領地を離れていた間に溜まってしまった政務を処理するのに追われているし、お母様もそれを手伝っている。
あたしも、ようやく落ち着いて研究出来る環境に戻って来たので日々そっちに励んでいる。
ミランダは屋敷に住んでもらってもよかったんだけど、本人が気にするというので屋敷からほど近い空き家だった家で暮らしている。多分あたし達が王宮に宿泊した時と同じような心境だったんだろう……確かに出来るなら気楽な場所でゆっくりしたいと思うわね。
本当ならこれまで通り魔道具店を経営して欲しいけど、せめてもう少し時間を空けてからにしてもらった。ミランダ自身も元からそのつもりだったらしく、暫くはてきとうに腕を鈍らせない程度に魔道具作りをしていくらしい。
つまり――ミランダはほとんど暇なわけだ。その上、これまでの蓄えはあるとは言え収入が無いのでは心許ない。
「そこであたしが雇ったというわけよ!」
「それで突然ミランダの家に行きたいと言い出した訳ですね」
サーラの言った通り今は屋敷の外、ミランダの家に行くためにその理由を説明している最中だ。
「王都から帰ってきてからそのほとんどを自室に籠って何かをしていたと思ったら、出てきた途端にこれですか……まあそれについては今更なのでいいです。それで、ミランダの所に行って何をするんですか?」
「そんなの決まってるじゃない。魔道具作りを依頼するのよ。ちょうど新しい術式の目途が立ったところだったし、元々そのつもりで雇ったんだから」
あたし1人で術式の開発から魔道具の作成まで行っていてはさすがに時間が掛かり過ぎる。それに加えてあたしにはいまいち魔道具作りのセンスが無いから上出来といえる仕上がりには持っていけないのだ。
だからこそ魔道具作りで名を馳せたミランダの力が必要になってくる。
「分かりました。ではあまり目立たない方が良いでしょうし、服装を平民に合わせて徒歩で行きましょうか。馬車で行くとミランダの家に要らぬ注目が集まってしまいますからね」
「分かったわ。それじゃあ着替えてくるから準備が出来たら玄関の前に集合しましょう」
「……いえ、お嬢様の服のセンスに心配がありますので私も着替えをお手伝いします」
「それ、失礼じゃないかしら?」
「では今回の目的にあった服をご自身で選ぶ自信があると?」
「……」
自分の芸術方面のセンスの無さはよ~く分かっている。それに服飾とかには興味が無かったから貴族としての最低限のマナーぐらいしか知らない。
その後、サーラに連れられて目立たなそうでそれなりにセンスの良い服を選んでもらった。
これで何処からどう見ても少し品の良い街娘にしか見えなくなっているはず。サーラも何時ものメイド服から私服に着替えたところで、屋敷を出てミランダの家に向かう。
「おやクレハ様!今日はお散歩かい?」
「ほんとだクレハ様じゃねぇか!?なんか入用なのか?今日もいい商品が揃ってるぜ!」
街に出たはいいものの、行く先々であたしだとバレてしまっている……
「ねえ、サーラ。これって変装する意味あったのかしら……?」
「……まあそれほど目立っている訳ではありませんから意味はあったのではありませんか?貴族然とした恰好で来るよりかはましだったと思いましょう」
「……そうね」
まあドレスを着て馬車で来るよりはそりゃあましだっただろうけれどね。
あちこちから話しかけてくる領民を軽くあしらいつつ速足でミランダの家に急ぐ。可能であれば変装用の魔道具とかをミランダに依頼してもいいかもしれないわね。
余裕がありそうだったらお願いしてみようかしら。
そんな事がありながらも無事にミランダの家に辿り着く。玄関の戸をノックすれば中から物音がして、それから暫くしてゆっくりと扉が開かれる。
「……あら、クレハ様じゃないの」
玄関から顔を覗かせたのは、ぼさぼさ髪で目の下に隈をつくったミランダだった。
最初に会った時ほどじゃないけど明らかに寝不足な感じが現れている。それに加えて心なしか洗っていない犬のような臭いがするような――
王都から帰ってきてこの家に住み始めるときはもっと普通だったと思うんだけど、何でまたこんなことになっているのかしら?
「ミランダ……あなたここ数日何をしていたんですか?」
「もちろん、魔道具作りに決まってるでしょう?この土地はいいわね。色んな魔物の素材が手軽に手に入るからどんどんアイデアが降ってくるのよ!これで鉱石類も種類が豊富なら、言うことなしだったわね」
「……最後に身体を洗ったのはいつですか?」
「ええと……そういえばここに来てから、そんな事してないわね。あら?今日はあれから何日経ったのかしら?もう朝になってたなんて驚きね」
「お嬢様。ミランダとのお話の前に少しお時間を頂いてもよろしいですか?」
「……ええ、許可するわ」
「ありがとうございます」
そういってサーラはミランダを引っ張っていった。ミランダもミランダで抵抗しても無駄だと思っているのかその意志がないのかされるがままに引き摺られていった。引き摺られた体勢のまま「好きに寛いでいていいわよ」と言っていたが……ここまで散らかった部屋でどう寛げと?
布だったり何かの魔物の素材だったり木片、金属片があちこちに散らばっている。王都のお店の工房はそれなりに綺麗だったけど、実際に作り始めるとこんな状態になるのね。
うん、さすがにもうちょっと掃除した方がいいと思うわ。なんなら2、3日に一回ぐらいサーラを派遣して掃除させようかしら?あたしが来る度にこの惨状になっているのはちょっとアレよね。
次に来た時に死体になったミランダを発見してもおかしくないわ。
邪魔なものを端に寄せてソファに何とかスペースを作る。そこに腰掛けようとして、ソファの上をサッと指を滑らせる。すると指にくっつく埃。
「……」
あたしは無言でポシェットからあるアイテムを取り出す。掌サイズの紫色をした巾着袋である。それを部屋の中心に口を広げて置き一旦外に出る。
「対象:部屋の中の埃、吸い込め」
その言葉に対する反応は劇的だった。部屋中から灰色の塊が集まってくると次々に巾着袋の中に吸い込まれていく。もちろん灰色の塊とはこの部屋に充満している埃だ。
ソファの上に溜まっていたものも、部屋の隅や家具の隙間からも次々と埃が出てきては吸い込まれていく。
少しすると吸引が終わる。
それを確認してから部屋の中に入ると空気中に漂っていた埃も吸い込んだようで、空気が清々しくなっているような気がした。心なしか臭いも無臭になった様な感じもする。
さっきと同じようにソファに指を這わせれば、今度は指に埃が付くことは無かった。どうやらきっちり効果を発揮してくれたらしい。
「思った以上に使えるわね。まだ術式を控えていなかったのが悔やまれるわ」
さっき使ったアイテムはつい最近ガチャガチャを回して入手したもの。
――――――――――――――――――――
アイテム名:使い捨て収納袋 レア度:☆☆☆
なんとこの袋、指定された対象を何でも自動で吸い込んで袋の中に収納する事が出来るんです!もちろん収納可能なサイズも幅広く最大で二階建ての一軒家すら収納出来てしまう程の容量を誇っています!
しかしこの収納袋にも欠点があり、それは一度きりしか使えないこと。収納して、中からそれを出してしまったらもうお仕舞い!袋は消滅してしまいます!
ですので使うときは要注意です!引っ越しならまだしも、旅行なんかで帰りも必要になる時には必ず運搬手段は考えておきましょう!!
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使い捨てだからなのか思った以上の効果をみせてくれた。本来の使い方とは違うかもしれないし使い捨てだからもう使う事は出来ないけど、まあ今回は構わない。何故ならこれより上位のアイテムであろう無限アイテムポシェットを既に持っているから!あっちの解析が進めばこれ以上の成果が得られるはずなので今回は見逃そう。
それにしても対象を指定すればそれだけを吸い込んでくれる点がかなりいい。
それ以外には何の影響も及ぼさないから今やったように簡単に掃除が出来てしまう。
「まあ仕方無いわね。これでようやく落ち着けるわ」
さすがにあの部屋でゆっくりするのは憚られた。ものが色々あるのは別に構わないんだけどね。あたしの部屋も似たような感じだし。
でも掃除に関してはサーラがしてくれるから決して汚くはないのよ?……放っておいたらこれと似たような惨状になるとは思うけど。
でも誰が掃除したにしても結局は綺麗になってるんだからミランダよりは大分マシよね!?それにあたしの部屋の場合はこんな風に床にものが散乱してるとかはないもの!ちゃんと棚とか箱に入っているからそんなに雑然としては見えないのよ?
……あたしは一体誰に言い訳してるのかしら?
まあいいわ。取り合えずミランダとサーラの方はもう暫く掛かるでしょうし……折角だから今日の分のガチャガチャでも回しておこうかしら。
そう思ってスキルを発動させると見慣れた選択肢が現れる。
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スキル:ガチャガチャ
使用可能ガチャガチャ
・魔石ガチャガチャ
・毎日一回無料ガチャガチャ
・【期間限定】ピックアップガチャガチャ(魔石)
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まだ今日の分の無料ガチャガチャを引いていないからさくっとそっちを回す。
出てきたのは銀色のカプセルだった。
「久しぶりにレアが出たわね。さてさて、どんなアイテムかしら――なんで?」
中から出てきたのはまさかのカプセル。まさかカプセルを開けたら中から別のカプセルが出てくるなんて思いもしなかったのだけど……え、こういう場合もあるのね。ちょっと驚いたわ。
詳しい能力を確認する為に説明書を読んでみる。
――――――――――――――――――――
アイテム名:魔物専用捕獲ボール レア度:☆☆☆☆☆
魔物を討伐するだけじゃなく、時には生きたまま捕獲したいなんてこともあるんじゃありませんか?
しかし相手は強力な力を持つ魔物!生け捕りにするには捕獲する側にもそれなりの被害を覚悟しなくてはいけません!その上、捕獲した後も安全に管理する方法も考えなくてはいけない!?
そんなお悩みを全て解決してくれるのがこのアイテム!なんとこのアイテムは魔物にぶつければ自動で捕獲してくれるとっても便利なボールなんです!しかも中に入っている魔物を外に出せば他の魔物にも使用できて何度も使う事が可能!
ですがこれだけではありません。通常は捕獲する魔物をある程度弱らせてから使う必要があるのですが初回使用時に限り――問答無用でその魔物を捕獲する事が出来るんです!!
さあこれを使ってあなたも一人前の魔物使いになりませんか!?
目指せ!魔物使いマスター!!
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「ふむふむ……最初だけはどんな魔物が相手でも弱らせることなく捕まえる事が出来ると。でもこれ、捕まえた後は自分で頑張れってことよね?魔物がそう簡単に言う事を聞く訳もないし、ある意味危険だと思うんだけど」
せめて意思疎通が出来る魔物だったらまだしも、それすら出来ないような相手を捕まえたらしっかり調教しないと危なくて外では出せないわよ。
下手したら一度捕まえたら永遠と外に出せないかもしれないわ。それにあたし魔物使いじゃないし。
「これは他の人が使った方が良さそうね。あたしじゃ持て余しそうだわ」
しかし機構が気になるのも事実。
それを調べている間にミランダの準備も終わったようで、やっとリビングに戻って来た。
ふぅ、これでようやく本題に入る事が出来るわね。
まだ目の下に隈は残っているけど他は随分とマシになったミランダとサーラも椅子に腰かける。そこであたしは今日この場所にきた本題を切り出した。
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