商業界に革命が起こりますよー!
商業ギルドの組織形態は冒険者ギルドと似ている部分がある。
それはどの国家にも縛られることのない国境を越えた組織であること。手が届く範囲におけるあらゆる国や地域に支部が存在しており、それ故にギルドを国家的な権力によって操作することはほぼ不可能に近い。
ある意味超法規的な組織であるということも出来るのだ。
そんな商業ギルドには登録するランクが3つ存在している。けれどそれは冒険者ギルドのように依頼達成による功績でギルド側から上げるものではなく、登録する時に自分でそのランクを選ぶことが出来る。もちろん一度登録した後でも一定期間空けることで別ランクに登録する事も可能らしい。
そんな3つのランク分けは、
グリーンランク、レッドランク、ブルーランク
に分けることが出来る。
簡単に言ってしまえば、グリーンランクは商会も店舗も持たない露店や出店など小規模な商売をする人向け。レッドランクはその国の中に商会を持ち店舗を作る人向け。そしてブルーランクは、商会を持ち尚且つ国内外で行商などもする人向け。
ちなみにこの3つの順番で登録に必要な資金と年に一度更新するときの費用が高くなっていく。
だからあたしは必要最低限としてグリーンランクへの登録を決めた。
グリーンランクの登録に掛かるのは銀貨5枚だ。そして登録を継続する為の費用がこれと同じだけかかるので、初回の登録時は銀貨10枚、つまり金貨1枚かかる。
最低ランクといえど想像していた倍は高い費用に思わず尻込みをしそうになったけど、サーラが素早く金貨を出した。
貴族といえどうちのような爵位の低い男爵家では金貨以上の硬貨を見ることすら頻繁にある事ではない。こういう時に億すことなく金貨を出せてしまうのを見ると、ひょっとしたらサーラの冒険者時代の稼ぎはそれなりのものだったのかもしれない。
何というか扱い慣れている感がある。
「それではこちらがグリーンランクの商業ギルド証になります。皆さんギルドカードとよく言われますが、王都には他にも複数のギルドが存在するのでお間違えのないように」
さっき紅茶を入れたギルド職員が小さな箱を持って入ってくると、その中にはあたしのギルドカードである緑色の縁取りをされた板が入っていた。
それを受け取ってサーラに渡しつつ、今の言葉の中で気になったことを尋ねる。
「王都ってそんなに沢山のギルドがあるのかしら?」
「そうですね。例えば冒険者ギルドやここのような商業ギルドは中でも規模がずば抜けて大きいギルドでもあります。他にも傭兵ギルドや、魔法ギルド、錬金ギルド、盗賊ギルドなどがあります。まあ中には評判の悪い……所謂
「なるほどね。気になると言えば気になるけど今は他にやりたい事もあるからそこまで触手は伸びないわね。機会があったら覗いてみる事にするわ」
「それがよろしいかと。それでは登録も終わりましたので、続けて術式の特許登録の方に移ってもよろしいでしょうか?」
「ええ、学園で思ったよりも時間を使ったから早速お願いするわ。今回特許登録した術式が――コレとコレの2つよ」
「拝見いたします――……どちらも見たことが無い術式です!片方に至っては私も全く分かりませんが、こちらの術式はゴーレム生成魔法の術式に似ている部分があります!凄い、凄いですよ!職業柄これでも魔法についてはある程度知っていると思っていたのですが、これらについては検討が付かない!!素晴らしいです!!」
術式を見て興奮しているアリューミンさんはちょっと怖い。
今回用意してきた術式は2つ。
まずアリューミンさんが全く分からないと言った方がつい最近解析に成功してい反重力空間を発生させる魔法の術式だ。
そしてもう一つは前々から作っていて最近ようやく日の目を見た魔法で、意志を持つ魔法を作り出す魔法。この前のパーティー会場で使った『
「ええっと、こっちの魔法が反重力空間発生魔法でこっちが自動支援型ゴーレム生成魔法『生命術式』よ。詳しい効果についてはこっちの書類にまとめてあるからまずは読んでみてちょうだい」
「拝見させていただきます!!」
書類を受け取ったアリューミンさんは顔をくっつけるほどに書類に近づけて、凄い勢いでページをめくっては中身を読んでいく。読み進めていくにつれて目は大きく見開かれたり、顔を蒼くさせたり百面相をしている。
「……ここに書かれている魔法の効果が本当なのだとしたら、軽く世界が変わりますよ」
「そんなに大げさじゃないでしょ?」
「いえ!!まず反重力空間発生魔法は流通技術に応用すれば一度に運べる載積量がとんでもないほどに向上します!そしてこちらの生命術式は魔法で出来た生き物を作っていると言っても過言ではありません!ゴーレム魔法と呼んでいますが、既存のゴーレム生成魔法とは一線を画す術式です!これを魔法学会にでも発表すれば今すぐにでも賢者の位を得ることが出来る程ですよ!!」
「そ、そうだったのね。そんなに大層なものだとは思わなかったわ」
「こ、これらは本当にクレハ様が考えられたものなのですか!?」
「ええ、そうよ。もちろん参考にしたものはあるけど解析と改良は自分でやったわ」
「素晴らしいぃぃ!!」
どうやらアリューミンさんは魔法術式が大層好きなようだった。もしくは新しい技術が好きなだけなのか。それにしたって、確かに応用にききそうな術式を選んできたつもりだったけど、そこまで評価して貰えるとは思ってもみなかった。
「サリヴァン様が天才だと言っていた理由が分かりましたよ。この術式を特許登録するのであればあっという間に王都に屋敷を買える程に稼ぐことが出来ますよ!ただ――クレハ様自身のお名前で特許登録するのはあまりおススメ致しません」
「……どうしてかしら?」
特許を申請するときって原則としては開発した人の名前が登録されるものだって聞いた気がするんだけど。それを本名で登録するのがダメだってどういう事なの?
「あまりにも世間への影響が大きすぎるのです。この術式からクレハ様へと繋がってしまえば、多くの組織や人間がクレハ様のところへ押しかけるでしょう。それこそ強引にクレハ様を連れていこうとする人間が出る程に……あまりご自覚が無いようですので、これは冗談でも過剰な表現でもありません。長年商人として、商業ギルドの長として生きてきた私が間違いないと断言します」
「……」
あまりの言葉に思わずサーラの方を振り返れば、アリューミンさんの言葉に同意するように頷いてみせた。
これらの術式を特許登録用に選んだのはもちろん様々な方面で利用価値があると判断したからだ。
例えば反重力は正にアリューミンさんが言っていた通りで、運輸の場面で活躍できると思っていた。体積を減らす事が出来る訳ではないが、重量を減らす事が出来るというのはそれだけでもメリットとなり得る。
他にもアリシアが来たときに使ったような娯楽の方面でも使う事が出来る。大きなメリットとなるのは空中というスペースを使える点にあるのだ。
そしてもう一つ生命術式は、通常のゴーレム魔法の土の属性適性がないと使う事が出来ないというデメリットを克服した術式である。ゴーレムは重労働な仕事の補佐として使われることもあるためそれが誰でも扱えるようになると考えれば需要はあるはずと考えた。
だからそれなりの収入にはなるんじゃないかと踏んではいたけど、まさかそこまで評価されるとは想定外だった。世間への影響とか偽名を使うように促されるとか、そこまでの話になるとは想定が甘かったと言わざるを得ない。
「そういう事なら偽名での登録にするわ。名前は、そうね……『アオハ』でお願いするわ。家名は無くてもいいわよね?」
「問題ありませんよ。それでは登録用の書類へのサインと、決まりですので実際にこの術式を使っているところを見せて頂きますがよろしいですか」
「分かったわ」
アリューミンさんが出した書類にアオハの名前を記述する。
続けて2つ術式を実際に使って見せる。反重力の方は効果範囲が込めた魔力量か術式の大きさに比例するので、コップ一個を浮かせる程度のフィールドを構築する。その中に紅茶が入ったままのカップを入れれば、中で液体が浮遊して漂う光景を見る事が出来た。
そして生命術式の方は、簡単に炎で出来た小鳥を作った。込めた魔力は少量だったので5分程で自然消滅するが、その間は術者の意思を汲み取って行動する。例えばアリューミンさんの作った水の輪を「ぶつからないように潜り抜けろ」と指示を出せば、こちらから前後左右の指示を出さなくても勝手に移動してくれた。
「書類と術式は確認することが出来ました。この後は仕様書と術式の効果に差異が無いかを調べる為の検証が行われるので実際に登録申請が受理されるまでに1週間程かかります。申請が通った場合でも通らなかった場合でもその理由と一緒に結果を同封した手紙をお送りしますので、その連絡をお待ちください」
「楽しみにしてるわ。それでもう一つ相談があるのだけど、この術式が使用されたときの収入についてなの。これの半分を魔石に変えてうちの領地に送ってもらうのと、残りの半分は貯蓄として預かってもらうことって可能かしら?」
「貯金に関しては商業ギルドのサービスの一環ですのでお預かりすることは問題ありません。受付でギルドカードを見せればその都度引き出すことが出来ますから。それと魔石の方に関しては領地までお届けする送料がかかりますが可能です」
「じゃあ、月に一度でいいから魔石を届けて。あと魔石についてのお願いなんだけど、品質の良いやつと悪いクズ魔石の両方を送って欲しいの。出来る限り多くの品質で試してみたいことがあるから万遍なくしてくれると嬉しいわ」
「そういう事であれば出来る限り品質がばらけるようにしてお送りいたしましょう」
「ありがとう。暫くはそれでお願いしたいんだけど、少し経ってから魔石の品質を固定する可能性もあるからその時は手紙で知らせるわ」
アリューミンさんはギルドマスターだからなのか契約やあたしのお願いをその場で即決してくれた。
これで商業ギルドですべきことも終わりアリューミンさんの勧めで紅茶とお茶菓子を堪能してからギルドを後にした。
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