まだガチャガチャ引いてくれないの!?
第三王女の入場に少し遅れて国王もやって来た。
姿が見えた途端に騒がしかった会場が一斉に静まりかえり、国王と一緒にやって来た王妃の足音だけが響く。
2人は真っすぐに舞台に登り、あたし達の事をさっと見渡す。
その時、あたしと目が合った気がしたのは気のせいだろか?
いやぐるりと見渡していたから、そう感じただけかもしれない。
「まずはよくこのお披露目パーティーに参加してくれた。今年もこうして元気な子ども達の姿を見る事ができ、大変嬉しく思う」
それなりに広い会場のはずなのに、その声がよく響いていた。中央よりも後ろにいるはずのあたし達の耳にもはっきりと言葉が聞こえる。
舞台に堂々と立つ姿からは、俗にいう覇気のようなものさえ感じられる。
「次世代を担っていく子ども達がこんなにいると、我も安心して国を治める事が出来ると言うものだ。さて、皆も知っての通りこのパーティーの主役は我々大人では無い、子ども達だ。長々と喋って、大切な交流の時間を奪うのもいけない」
そう言うと、舞台の袖の方に何か合図を送る。
すると舞台上にぞろぞろと楽器を持った人々が現れる。
「未来を担う子ども達よ。ここは君達が主役のパーティーだ。ここで得た繋がりが将来のどんな場面かで役に立つ事もあるかもしれん。同世代の子どもがこんなに集まるのは君達にとって初めての経験だろう。だからこそ、遠慮はいらない。話したい事があれば積極的に話すがいい。友になりたいと思ったのなら、そう伝えるがいい。自由に、けれども参加して良かったと思えるような場にして欲しい。では、パーティーを始めよう!」
最後の一言と共に準備を終えた楽団が演奏を始める。
音量はさほど大きくなく、会場に自然と溶け込んでいる。それに音楽があると少し気分が高揚するような気もしてくる。
挨拶を終えた国王は会場中から拍手を受けながら、ゆっくりと舞台を降りて行った。
「おお!すっごくカッコよかったな!今のが国王陛下だよな!」
「その通りだ。何というか、やっぱり雰囲気があるよな」
確かに会場の明るさは変わっていないはずなのに、まるで国王の立っていう場所にだけライトが当たっているように感じた。
舞台から降りた国王の元には、既に多くの貴族とその子ども達で長蛇の列が出来ている。
「お父様、あたし達も並んだ方がいいんじゃないの?」
「うちは貴族としては爵位が低いからね。なるべく後ろの方がいいんだよ……でも、そろそろ大丈夫かな?それじゃあ行こうか」
ほとんど最後尾に並んだので、挨拶までかなりの時間を要してしまったけれどようやく順番が回ってきた。
ここでも爵位の関係で、まずはロイドさんとファイたちアミーティア伯爵家から。続けてをウィリアムさんとソフィアたちワイスガイア子爵家が。そして最後のあたし達カートゥーン男爵家の順番となる。
先に挨拶していたファイやソフィアはスムーズに終わらせていた。
ファイはさっきの国王の姿に感化されたのかもっと話したそうにしていたけど、後ろがあるのでロイドさんに再び引きずられていた。
ソフィアはあたしにした時と同じように綺麗なカーテシーをして、国王からお褒めの言葉をもらったりしていた。
そしてあたし達の順番となり、王族たちの前に立つ。
国王と王妃、そしてもちろん第三王女もいる。けれど、第三王女は少し飽きが来ているのもはやこっちに目もくれていない。
これだけの人数を捌いているのだから付かれるのは分かる。
だけど、せめてそれを隠そうとする努力ぐらいはして欲しいだけど。
「カートゥーン男爵家三女、クレハ・カートゥーンと申します。本日はこのようなパーティーに招いて下さりありがとうございます」
あたしが自分の名を名乗ると、第三王女はピクリと反応しこちらに視線を向けた。
恐らくお姉様たちと同じ家名を名乗ったからかしらね。
「よく来てくれたな。君がクレハ嬢か……なかなか聡明そうだな」
そして国王は少しだけ声を潜めて周りに聞こえないぐらいの声量で続きを話す。
「アレスとレイラから話は聞いている。此度の件は感謝するぞ」
そうか、そういえば2人とも陛下に報告するとか言っていた気がする。
「勿体ないお言葉です。この度の問題は国にとっての問題でしたので、協力する事は国民として当然の事です」
「……これで5歳と言うのは末恐ろしいな。しかしそれを言うならば、其方のお陰で国が救われたとも言えるな。事が事だけに公には出来ないが、私個人から何か褒美を取らせたいと思う。何かないか?」
「と、突然そのような事を申されましても……」
「それもそうだな、すまん。では近いうちに王城に招くことにしよう。その時までに考えておいてくれ」
あれ、どうしてか分からないけどまた王城に来る流れになってる?
「い、いえ!それだけの為にわざわざ招いて頂くなど恐れ多いです!褒美なんて、本当に偶然出来る事があっただけですので」
「そうはいかん。信賞必罰は国王の義務である。それに良き働きをした者に褒美を与えるのは我にとっても楽しみなのだ。是非とも受け取って欲しい」
ぐぬぬ、国王の義務とかそもそも王様にお願いされて断る事なんて不可能に等しい。
どうにかこの場を切り抜ける方法を模索しようとすると、国王の後ろにいるジュリアお姉様が何かしているのが目に入った。
両手を合わせて「頼む!」みたいな仕草をしている。それはつまりこの話を受けろという事よね。
その隣ではフローラお姉様もあたしと目が合うとコクリと頷く。
「……分かりました。陛下の臣下を思いやる心配り、感謝したします」
「そ、そうか!うむ、では後日招待状を送るからな!」
どうやら満足したようなので、一礼してから列を外れる。視界の端でジュリアお姉様が「あいあおう」と口を動かしているのが見えた。状況的に「ありがとう」だろう。
恐らく何か知っている様なので、今日帰ったら聞くことにしよう。
第三王女とはほとんど話す事が出来なかったけど、向こうもあまり興味無いみたいだったし別に構わないだろう。
そして少し離れた所で待っていてくれたアミーティア家とワイスガイア家と合流する。
「随分話し込んでいたようですが、何かあったのですか?」
「いや、クレハが5歳にしては賢いと褒めてもらっていただけだよ」
ティアラに関する事、特に精霊なんかの事はほとんど知られていない情報だ。
さすがにそれを皆に言う訳にもいかないので、バルドお父様も誤魔化している。
「そういえば、第一王子様は来ていなかったわね。お姉様たちは来るんじゃないかって言ってたんだけど」
「ああ、そういえばそうだったね。僕もてっきりいらっしゃると思っていたよ」
「ん?知らないのか?第一王子様なら陛下の名代として隣国を訪問していらしいぞ」
「あれ、そうだったのかい?」
「バルド達はついこの間王都に到着したんですよね。でしたら知らなくても無理ありません。しかし、最近魔物の動きが妙に活発になっている事はご存知でしょう?」
「ああ、うちの領地でも少しおかしな動きを確認しているからね」
「隣国でも同じような状況らしく、その原因についてお互いの状況を擦り合わせるために向かったらしいです。さらに言うと、他の王族の皆様もそれぞれ何かしらで忙しいらしいですよ」
魔物の動きが活発になっている、か。
確かあたしの誕生日の時にお姉様たちが狩ってきたフレイムドラゴンも、あの周辺では見ない魔物だった。
「――さすがに情報が少なすぎね」
「クレハ、挨拶も終わったし僕達はそろそろ移動するから。後は子ども達だけになるけど、大丈夫かい?」
「別に問題ないわよ。それよりもうみんな移動し始めてるわよ」
「分かったよ。それじゃあファイ君やソフィアちゃんと仲良くするんだよ。それと折角のパーティーなんだからクレハも楽しんで!」
「はいはい、また後でね」
何時までのちらちらと視線を送りながら去って行くバルドお父様を無視して、ファイとソフィアに向き直る。
「さて、これからどうする?あたしは適当に壁際にでもいようと思うんだけど」
「でしたら私もご一緒しますわ。もっとクレハちゃんとお話したいですもの」
「えっとソフィア、その『クレハちゃん』ていうのどうにかならない?あんまり呼ばれ慣れてなくて変な感じがするんだけど」
「そうなんですの?……クレハさん――やっぱりダメですわ!クレハちゃんが一番しっくりきますの!」
ちゃん呼びの何が彼女の琴線に触れたのだろうか?「さん」と「ちゃん」でそんなに違いがあるのかしら?
いや、それで違和感を感じている本人が言う事じゃないか。
「まあ、それでいいわよ。それでファイはどうするの?」
「俺か?俺はあっちにある料理が気になってるんだ!ちょっと取ってくるぞ!」
「あっ、ちょっと!あたし達向こうにいるから気が向いたら来なさい!」
「分かった!お前らの分も持ってくるから心配すんな!」
何を勘違いしたのか、あたし達も料理が食べたいと思われてしまった。
それに向うを指差した時こっちに視線を向けていなかったけど、本当に分かっているのか心配である。
「大丈夫ですわよ。ファイ君、とっても目がいいらしいのでこれぐらいの会場ならすぐに見つけると思いますわ」
「そうなの?」
「はい!クレハちゃんが来る前に色々とお話していたので、その時に聞きました。何でも領地のお屋敷から毎日ダンジョンに入って行く冒険者を眺めていたら自然と良くなったとかなんとか」
「理由はよく分からないけど、それなら心配いらなそうね。それじゃあ移動しちゃいましょうか」
途中で給仕の人に飲み物を貰って壁際に辿り着く。
ちょうどよく椅子が置かれていたので、そこに二人で腰掛ける。
「テーブルもあればよかったんだけど、さすがに立食形式のパーティーだとそこまでは無理ね」
「後で給仕の人に聞いて見ましょうか?もしかしたらファイ君が沢山料理を持ってくるかもしれませんし」
「その方がいいかもしれないわ」
さすがに一人一皿ぐらいしか持ってこないはずだ。というかそれにしたって3人分だから3皿もある。一人で持ってこれる量なんてそれぐらいだろうから、そこまで心配する事も無いかもしれないけど。
ソフィアは話したい事があるとか言っていたけど、蓋を開ければこっちが質問攻めになっていた。
もう本当に色々と聞かれて、誕生日から趣味、将来の進路などなど根ほり葉ほり聞かれた感じだ。
「それでは今度は「ソフィア、悪いんだけどちょっと疲れたわ」――そうでしたの?気が付きませんでしたわ。ごめんなさい、クレハちゃん」
そう言うとソフィアは肩を落とし、見て分かるほどにしょんぼりしてしまう。
悪い子ではないのだけど、ちょっと面倒臭い子かも。
そんな事を思いながら、ソフィアを慰めていると向こうにファイの姿が見えた。
その両手には料理がどっさりと料理が盛り付けられた皿が乗せられている。そう持っているのではなく、乗せられているのだ。
掌だけじゃなくて肘から上まで、曲芸でもしているかの様に皿を乗せている。
「あの子っ、何であんなに沢山持ってきてるのよ!?」
こっちに歩いてきながら、あっちにふらふらこっちにふらふらしている。ちょっとでもバランスを崩せば今にも転んで、全部床に落としてしまいそうだ。
「ソフィア!手伝いに行くわよ!」
「そ、そうですわね!」
不味いと思いファイの元に行こうとすると、その前に別の救いの手が差し伸べられた。
ファイの近くで沢山の子どもに群がられていた第三王女だ。多分あたし達と同じように、危なっかしいファイの姿を見て来てくれたんだろう。
すると第三王女に話しかけていた面々の付いてくるわけで……
こっちを向いたファイと視線が合う。
分かってるわよね?あたしとソフィアが手伝ってあげるから、もしお手伝いされそうになっても断るのよ!
ファイは少し考えるような仕草をしてから、理解したようでこっちに頷きで返事をする。
これで一安心――あ、あら?何しているのかしら?どうして第三王女たちにお皿を配り始めているの?どうしてこっちを指差しているの?
こ、こうなったら護衛として残っているお姉様たちにどうにかして貰おう。
お姉様たちなら、あたしが平穏無事にパーティーを終えたい事も知っているはずだ。
お姉様、気づいて!すぐにそのお皿をファイに返して王女たちにはお戻り願って!
すると真っ先にジュリアお姉様と目が合う。
ジュリアお姉様は気配に敏感だから、あたしの視線にも気づいたんだろう。姉妹なら視線だけでもきっと意図が伝わるはず!お願いジュリアお姉様!
……あ、ダメだわ。返すどころか数人に子どもを引き連れて料理が置かれているテーブルに行ってしまった。
これは、アレね。「これだけの人数だと料理も足らなくなるよな?」「つまり追加の料理を持って来いって事だな!」みたいな思考回路の結果の行動ね。
そして子ども達は何で子分みたいに付き従って行ってしまったのだろうか。
お姉様たちって王都だとそんなに人気が高いの?
知らないのってあたしだけだったの?
結果、姉妹間でもアイコンタクトで意思疎通を図るのは不可能だと言う事が分かった。もしくは受け取る側に空気を読む能力が備わっている事が前提条件だ。
「人数が増えそうですわね。すぐにでも給仕に追加のテーブルを持ってきて貰いましょう!」
「……ええ、そうね。そうしましょう」
諦めよう。あれだけの人数が来るんだ。わざわざあたしに話しかけてくる事も無いだろう。ファイとソフィアとお料理を食べながら、ひっそりとしていよう。
給仕の人が急いで持ってきてくれたテーブルにお皿が並べられていく。さながら小規模なパーティーみたいになってしまったけど。
「ファイ、あなた何であんなに沢山料理を持ってきたのよ」
「そりゃあ種類が沢山あったら、全部食べたくなるだろう!でもちゃんと我慢もしたんだぞ?父上が周りを見て普通にしているんだぞって言ったから、ほどほどの量にしたし」
アレの何処がほどほど何だろうか?そしてこの会場の何処を見たらあれが普通という結論に至ったのかしら?
ファイが男の子な事や、三人で食べる事を考慮しても明らかに量が多かったと思うのだけれど。
「はぁ……まあ来てしまったものは仕方ないわね」
「何が仕方ないのですか?」
3人で話していたはずなのに、背後から聞き覚えの無い声がした。
嫌な予感がしつつも振り向くと、視界に入ってきたのは水色の髪の女の子、つまり――
「だ、第三王女様……!」
「さっきぶりね。アミーティア家のファイ、ワイスガイア家のソフィア。そして、カートゥーン家のクレハ」
あたし達一人一人の目を見ながらそれぞれの名前を間違いなく言い当てた。
もしかしてさっきの挨拶の時に全員分の顔と名前を覚えたのかしら?面倒くさそうにしていた割には、案外しっかりと聞いていたのかもしれない。
いや、今はそんな事よりも……何でよりによって第三王女がこっちに来るのよ!?
ほら、あなたの後ろでもっと喋りたそうにしている子ども達が沢山いますよ?こっちに構っていないで、向こうと話して来てはいかがですか?
「私は、私が喋りたいと思った相手と話すのよ。何か問題あるかしら?」
「い、いえ。問題なんてありません」
「そうよね。それからクレハ、あなた無理して喋ってる感が凄いわよ?別に構わないからいつも通りの話し方で喋ってちょうだい。何というか……ちょっと変よ」
「っ……ええ、分かったわ。今後はそうさせてもらうわね」
「一体誰のせいだと思ってるんだ!?」と言ってやろうと思ったけどそれは胸の内に仕舞っておく。
それにしても王族だからなのか、他の貴族の子どもとは少し雰囲気が違う気がする。
正直同年代と喋っている感じはしない。
「それでいいわ……それで、クレハ。さっきお父様と何かこそこそ話していたようだけど、アレは何だったのかしら?」
……もしかして、とんでもない勘違いされてる?
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