閑話 暇を持て余した神々

 ここは神々が住まう世界である神界――

 人間たちの暮らす世界とは異なる空間に存在している場所である。

  

 そんな世界にある泉の周りに神たちが集まっていた。


「それにしても<ガチャガチャ>のスキルに加護を入れるなんて思い切ったことをしたね」


「確率的にはかなり低く設定したのよ~?でもまさかあんな短期間で出ちゃうとはこっちも驚きなのよ~。それに物作りが得意じゃない神もいるんだから公平にいかないとダメでしょ~?」


「それについては僕も驚いているよ。しかも彼女に相性のいい僕の加護が出るんだから猶の事驚きだよね。君が何か仕掛けてるんじゃないのか疑うぐらいだったよ」


 そう言って男の子ぐらいの年齢の少年が目の前にいる金髪の女性に視線を向ける。


「私は何もしてないわよ~。私が下手に介入したら大変な事になるのは知ってるでしょ~?というか確率云々で言うんだったら運命の神の方が怪しいんじゃないの~」


 そう言って金髪の女性は隣にいる運命の神と呼ばれた紫がかった銀髪の少女に視線を受け流す。


「わ、私は何もしてないわよ!?あの子が気に入ったからって、ガチャガチャを引く時に幸運の付与なんてするわけないじゃない!?」


「「……」」


 なんて分かりやすい反応何だろうと、少年の女性は思った。


「な、何よ!?それを言うなら知恵の神だって加護の他にもスキルをあげてたじゃない!それが大丈夫ならあたしのだって問題ないじゃない!」


「僕がやったのは自分の加護を持つ者に対する干渉だから大丈夫なんだよ。君は加護も持っていない相手に干渉したんだから問題になの。分かる?」


「だってぇ……」


 知恵の神と呼ばれた少年に問い詰められて涙目になってきている少女を庇うように金髪の女性が口を挟んだ。


「まあまあいいじゃないですか~。別に世界に影響は無かったんですし、そこら辺は運命の神も気を使ったんでしょう~?」


 神が人間の世界に干渉するという事は、少なくない影響がある。もちろん絶対に悪影響があるという訳ではないのだが。

 とは言え今回に関しては何の影響も確認されていないことも確かだ。


「はぁ……まあ今回は仕方ないにしても、もうダメだからね。干渉するにしてもあの子が運命の神の加護を得てからにしてよね」


「分かってるわよ!それについては当てがあるから、ちょっと時間があればきっとあの子はあたしの加護を手に入れるわ!」


 胸を張って言い切る運命の神を、頭痛を堪えるように頭を抑える知恵の神。そしてそれを楽しそうに見守る風体で別の事に思考を割いている女性の絵図が出来上がっていた。


「そんな事よりも今は<ガチャガチャ>の今後についての話し合いをするんでしょう。早く話を進めませんか?」


 そういって3人のやり取りに口を挟んだのは青い髪の鋭利な視線を持った女性だった。

 その視線に思わず体を震わせると、無駄口を挟む間もなく大人しく座る。


「それじゃあ今日の議題を進めて行きましょう。創造神、お願いするわね」


「お任せください~!それでは今日の議題を発表します~!」


 創造神と言われて返事をしたのは、金髪の女性だった。

 立ち上がると、いつの間にか背後に出現していた黒板に文字を書いていく。


「ズバリ、議題は次のガチャガチャのピックアップについてです~!」


「「「おお~……!」」」


 集まっていた神々から声が上がる。

 黒板にはでかでかと『次のピックアップはどの神が主導するのか!?』と書かれている。

 創造神は黒板と一度バンッと叩くと、熱の籠った調子で話を進める。


「まずは<ガチャガチャ>スキルの製作に関わってくださった皆さん、ありがとうございました~!お陰様で無事にスキルを完成させて人の子にプレゼントすることに成功しました~!」


 その宣言と同時に周囲に紙吹雪が舞い、神々も手に持っているクラッカーを弾けさせる。クラッカーの音だけでなく、口々に「おめでとう!」や「やった~!」などの声も聞こえてくる。

 ちょっとした騒ぎになってしまったその場を仕切り役である創造神が宥めてから話を続ける。


「どうどう~……ガチャガチャについては皆さんも見た通り好評に使われています~。初回のピックアップについては私の方適当に決めてしまいましたが次からは別です~。以前にもお話した通り、2回目以降はそれぞれの神々が主導でどのようなピックアップ、イベントにしていくのかを決めていきます~!」


 創造神の言葉にまたもや場に賑やかさが戻ってくる。全員がそれぞれにどんな風にやってみようかなど考えたり、話し合いを始めてしまっている。

 するとそこで、一人の神から手が挙がる。それは先程創造神たちを席に座らせた青い髪の神だった。


「創造神、質問してもよろしいですか?」


「全然かまいませんよ~。どんどん質問してください~。それで海の神はどうしたんですか~?」


「ピックアップについてなのですが……順番は決まっているのでしょうか?」


 青い髪の女性、海の神のその質問で場が一瞬にして静まりかえる。


「ガチャガチャの製作に関わった全ての神が主導する事が出来るというのは以前から聞いていた通りです。しかし、誰がいつそれをすることが出来るのかについては聞いていませんでしたので、どのように考えているのかと思いまして」


「じゅ、順番ですか~?ええと、それはですね~……――」


 言葉に詰まり始めた創造神をじっと見ていた海の神だったが、沈黙が始まってから少しして確信を得たように呟く。


「やはり、決めていなかったのですね?」


「……はぃ~」


「なるほど。では次のピックアップ期間はどの神が行うのか決まっていないと。そうですか……さて、誰からにしましょうかね?」


 そう言って海の神は自分の周りに視線を巡らせる。

 すると他の神々も周囲を見回して様子を窺っているような雰囲気を漂わせている。その場にいる全員が何やら物騒な雰囲気を纏って、静寂が辺りを包んでいた。


「……これだけの数の神による喧嘩とは久しぶりですね。気合いが入るというものです」


「う、海の神~?ちょ、ちょっと落ち着きませんか~?」


「ああ、創造神。あなたは一度ピックアップを決めているので、全員の順番が終わるまで参戦資格はありませんからね――それでは行きますよ!」


 その声を皮切りに武器を持ったり、身体からオーラみたいなものを出したり、人間と同じ姿から形を変え始める神たち。


「そ、そんなぁ~!?私だってもっと他にやりたい事があったのに適当に決めたんですよ~!?……こうなれば、私も参戦して勝者の言う事を聞かせてやります~!」


 そいう言い残すと創造神も目の前ので繰り広げられている世紀末、もしくは世界の終わりのような光景に突撃していった。


「……海の神に話の主導権を取られた所で、マズいな~とは思ったんだよね」


「知恵の神!私達も行きましょう!久しぶりだから腕が鳴るわ!!」


「えぇ~……僕は知恵の神であって戦いには向いてないんだけど」


「ああ、ちなみにですが戦いに参加しなかったら自動的に順番は最後尾に送られますので。では――」


 いつの間にか近くに来ていた海の神は、そう言い残すと再び戦場に戻って行った。


「やっぱり行くしかないわね!さあ、全員ぶっ倒してチャンスをつかみ取るのよ!」


「こういう時、異世界ではこういうんだっけ?ドナドナ~……」


 こうして神界における神々の戦いが始まったのであった。

 理由は実にくだらない理由だが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る