ピックアップが決定しました~

「クレハ……お前一体何してんだ?」


「何って見ての通り泳ぎの練習よ」


「いや、何がどうしてそうなったのかって話なんだが……まあいいや。ちょっとお前にも話があるからこの後応接室に来てくれないか?例のティアラも持ってきてくれ」


「……分かったわ、ちょっと待ってて」


 横で話を聞いていたサーラもすぐに状況を把握して水から出てくる。一応アリシアにこの場を離れる事を伝えてからその場を後にする。

さすがにびしょびしょの格好のままで話を聞く訳にもいかないので一旦部屋に戻って着替えを済ませないと。


 自分の部屋でサーラに手伝ってもらいながら着替え始める。


「お姉様が連れてきた人たちの事何か知ってる?」


「確実ではありませんが、容姿などから推測すると騎士団総長と魔法師団師団長ではないかと思われます。ジュリア様とフローラ様がそれなりに気を遣う相手となるとほぼ間違いないかと」


「そう……その人達がわざわざ落とし物のティアラを見に来た、いえ回収しに来たってことね。こんな事なら朝の家のお姉様に渡しておけば良かった」


 そんな国のお偉いさんたちが来るなんて面倒でしかない。

 面倒なマナーに気を付けながら行動の一つ一つを慎重に行わないといけないのだ。


「まあでもあたしはティアラを渡して終わりだろうし、そんなに相手をする事も無いわよね。それとティアラを包む用に上等な布を用意しておいてちょうだい。ポシェットはあまり見せたくないから。国の中枢に近い人には特にね」


「畏まりました。すぐに用意します」


 髪を乾かしてセットして化粧もするとなるとかなり時間が掛かってしまうのでそこら辺はてきとうでいいだろう。むしろあまり待たせるのもよろしくないと思うので急いで支度を済ませる。

 

 それが終わると絹の布にティアラを包んでから応接室に向かう。

 手前まで来ると中ならは談笑する声が聞こえてくる。お姉様たちとお客さん二人。そして何故か5人目の声が聞こえてくるのはどうしてだろうか。

 まあ揉めている訳でもなさそうなので気にせず扉をノックする。


「お待たせしました。クレハです」


「待ってたわよ~。どうぞ入って~」


「失礼します」


 一礼して中に入ると、そこには権力者を立たせて堂々とソファに座っているアリシアの姿が一番に目に入ってきた。挙句の果てに子ども、魔法師団団長に入れさせたお茶をのんで寛いでいる。


「アリシア、何してんの?」


 さすがに何も言わずにはいられなかった。


「この話って国宝のティアラに関する話なんでしょう?だったら私も聞く権利があるからこうして来ている訳よ。というか髪の毛全然乾いてないじゃない。ほら――」


 アリシアが指を振ると頭部が一瞬温かくなった。

 触ってみると湿っていた髪がちょうどいいぐらいまで乾いている。恐らく魔法だと思うけどあんな適当な動作で発動するなんて……


「その持ってるのがティアラね。ちょっと見せてちょうだい」


 さすがにこれはどうなのかと思ったのでお客様2人に視線を送ると、うんうんと食い気味で肯定された。許可も出たので言われた通りティアラをアリシアの目の前に持っていき、布を解いて見せる。


「……なるほどね。本物で間違いないわ」


「「おお……!!」」


「どうしてアリシアがそんな事分かるの?それって国宝なんでしょう。鑑定ってそんなことまで分かるものなの?」


「鑑定じゃ国宝かどうかまでは分からないわよ。それの効果は分かると思うけどね。私が分かったのはこれを知っていたからよ。それにこんなものが2つもある訳ないわよ」


 自慢するように胸を張っているアリシアだけど、そもそもどうして国宝を知っているのだろうか。確かこれってずっと宝物庫に仕舞われていたって話だったと記憶してるんだけど。

 アリシアって何者なのかしら?


 するとティアラに視線を戻したアリシアの眉間に皺が寄る。


「でもこれ契約が切れかかってるね。魔法……いえ呪術、呪いで干渉されたのね。今は綺麗に浄化されているけど相当強力なものが掛かっていたはずよ」


「……かなり気になる話が出てきてるんだけど、その前にまずはそっちのお客様の事ね。お姉様この方たちを紹介して貰ってもいいかしら?」


「お、おおそうだったな。話がとんとん拍子で進むから口を挟む暇が無かったから助かったぜ。それじゃあまず私から、そっちの図体の大きい人が我らが王都騎士団総長のアレス様だ」


「挨拶が遅れて申し訳なかったな。紹介にあずかった騎士団総長のアレスだ。ジュリアの上司に当たるな。急な押しかけになって申し訳ないが、今日はよろしく頼む」


「それじゃあ次は私から~。こっちの小さい人が私の上司の魔法師団団長のレイラ様よ~」


「魔法師団団長のレイラじゃ。ちなみに身体がちっこいのは色々な実験の結果で、年はお主よりも上だから勘違いせぬようにな。よろしく頼む」


「かなり危ない魔法を自分の身体を実験台にして使う危ない人な上に~、この中で最年「フローラ、それ以上は言うてくれるなよ?」――年は秘密です~」


 うん、凄い力の強そうなアレス様と最年長のレイア様ね。

 年齢に関してはこれ以上考えるのは止めておくとして、やっぱりかなり偉い人達だった。2人とも王族の次に国の顔ともいえる人達だ。そんな人がペコペコしているなんて増々アリシアのことが分からなくなった。


「私からも聞きたいんだけど、そっちのエルフの人は何者なんだ?総長やクレハは知っているみたいだけど私達は知らないんだよ」


「そうだったの?と言ってもあたしもアリシアって言う名前と冒険者である事ぐらいしか知らないんだけど。さっき街に行った時に知り合ったのよ」


「……アリシア殿は私が若い頃から冒険者として活躍されている方だ。昔稽古をつけてもらった事もある。レイア殿は関節的にではあるが弟子にもあたるからな」


「わしの魔法を教えてくれた師匠の師匠がアリシア様なのじゃ。いわゆる孫弟子ってやつじゃな」


「アリシアあなた……いったい何歳なの?」


「見ての通りまだまだ若いわよ!エルフは老化が遅くて若い時期が長いからまだまだ全然スイーツとかイケメンとかでキャーキャー言えるお年頃よ!」


 本当に若い人はそんな言い訳しないと思う。

 とりあえずアリシアとこの人たちの繋がりは分かったので良しとしておこう。聞くかどうか迷っていたのでジュリアお姉様に感謝だ。今度いいアイテムが出てきたら優先的に譲ってあげよう。


「まったく、それじゃあ話を戻すわよ。このままだとかなり不味いわよ。契約が切れるような状態になってしまった事は既に精霊側に知られていると思うし、いつ怒鳴りこんできてもおかしくない状態ね」


「そ、そんな。どうにか穏便に済ませる事は出来ないのでしょうか!?」


「そもそもこんな大事なものを盗まれたことが不味すぎるのよ。挙句の果てに色々弄られちゃったみたいだし。全力で謝罪してどうにか怒りを静めてもらうしかないわね。もう面倒くさいからこれの場所知らせちゃうわね」


「ちょちょっとお待ちを――」


「どうせすぐに見つかるんだし、こっちからアプローチした方がいいでしょ?」


「いえいえいえいえ!!せめて陛下のいる所でやっていただかないと!!ここで呼び出してしまっては色々と問題がありますので!?」


「ええ~……まあいいけど。じゃあ後はそっちでどうにかしてよね」


「あの、出来れば王城まで来てくださいませんかのう?ギルドの方にきちんと依頼として出させていただくので」


「無理よ。もう別の依頼を受注しちゃってるから受けるにしてもそれが終わってからじゃないと出来ないわ。その頃にはもう向こうにバレて王都が水の底に沈んでるかもしれないけどね、あはは!」


「「……」」


 アリシアの言葉にアレス様とレイア様は完全に沈黙してしまう。

 精霊云々はよく分からないけど、このティアラ関連で大変な問題がありそうな事が間違いなさそうだ。

 王都が沈むとかはさすがに言い過ぎと思うけど、ほっといたら危なそうな気配はする。


「アリシア。それの解決方法とか無いの?危ない事になるのは勘弁してほしいんだけど」


「そうね~……結局は精霊本人に聞いてみたいと分からない部分があるけど、土下座で平謝りすれば許してくれるかも。後はご機嫌取りに贈り物とかかしら?水に関するものとかがいいかもしれないわね。ああでも、そこらにあるものじゃ駄目よ。最低でもこのティアラと同じぐらいの価値がある物じゃないと」


「国宝と同じぐらいの価値って。そんなものそうそう手に入らないんじゃ……」


 国の重鎮2人が完全に諦めたような顔で土下座の相談をし始めた。

 とりあえず王族と貴族の当主を全員集めて国を挙げての土下座を披露するしかないとか言ってるんだけど、それだとバルドお父様もする羽目になるわよね?

 さすがに父親の土下座は見たくないんだけど。


 そんな時の事だった。


 唐突の頭の中に『ピコン』と聞きなれない音が響いてきたのだ。

 それを皮切りにして、今度は声が聞こえてきた。

――――――――――――――――――――

スキル<ガチャガチャ>からのお知らせです。

この後17:00から新しいピックアップガチャガチャを開催します!今回の内容は……なんと海の関するアイテムをピックアップ!さらにこの期間限定でしか手に入らないアイテムも新しく追加しました!詳しい事は時間になってからスキルを確認してみましょう!

それでは良きガチャガチャ日和を!

――――――――――――――――――――


 それだけ言い切ると声は聞こえなくなってしまった。

 周りを見渡せば誰も声には反応していない。という事は、さっきの声が聞こえてきたのはあたしだけという事になる。

 まあスキルからのお知らせって事はあたしだけにしか聞こえなくてもおかしくないか。


 それにしても海に関するアイテムね……何というか随分とタイミングがいいというか。もしかして今の状況を見ていたのかしら?

 いや、まさかね。そんな事ある訳ないわよ。


 時間を確認しようにもこの部屋に時計は無いし、タブレットも部屋に置いて来てしまった。どうしようかとキョロキョロしていると、どこからか鐘の音が聞こえてくる。


「この音は……?」


「ああ、これは王都に時間を知らせるための鐘の音だ。ほら複数回叩いているだろう?この回数がその時間を表しているんだ。これは……5回鳴らされているから17時の鐘の音だな」


 あたしの呟きを拾ったアレス様がそう教えてくれる。

 という事はさっきの声によればもうガチャガチャのピックアップが始まっているはずだ。


 さて、どうしたものか……


 もしかしたら今回のガチャガチャを引けば精霊様を鎮める事が出来るアイテムが手に入るかもしれない。だけどそれを話してもいいものかどうか。国の一大事なのであれば手を貸すべきなんだろうけど、いまいち実感が湧かないというか現実味がないというか。

 でもアレス様とレイア様の反応を見る限り本当の事なんだとは思うのも確かだ。


「お姉様ちょっと……」


「どうした?」「何かしら~?」


 とりあえず相談するためにお姉様たちを呼び寄せる。


「さっき水に関するアイテムの話があったでしょう?もしかしたらそれを何とか出来るかもしれないのよ」


「それって~、やっぱりガチャガチャでって事~?」


「そうよ。ちょうどピックアップ、特定のアイテムが出やすい期間が始まって今回はそれが海の関するアイテムなのよ。海って事は水にも関係あるでしょ?」


「なるほどな。それならそうと早くいってくれればよかったじゃねえか」


「忘れたの?お父様からこのスキルの事は無暗に話さない様にって言われてたでしょ。だからどうしようかって相談なんだけど、二人はどう思う?」


 そう聞くと2人は少し考えるような動作をする。

 そして最初に口を開いたのはジュリアお姉様だった。


「私は言ってもいいと思うぞ。この場に奴と、最低陛下辺りにはバレると思うけどみんないい人たちだからな。面倒な貴族にさえ見つかんなきゃ問題ないと思うぜ」


 ジュリアお姉様がそう言うって事は人格に関しては確かという事だ。この人は本能的に人の良し悪しを察知するから信用できる。野生動物みたいだけど、まあ似たようなものだから気にしてもしょうがない。


「私は条件付きなら話してもいいと思うわ~」


「条件……?」


「そうよ~。まずクレハのスキルの事を話さないっていう魔法契約を結んでもらう事が大前提の条件ね~。それからなるべく話が広がらない様に~、知っている人間は最小限にしたいわ~。それと万が一の時に備えて身代わりもいると完璧ね~」


 魔法契約は特殊な製法で作られた契約用紙を使って契約を交わす事を言う。これを破るとかなり重い罰が下されるので、自分から破ろうとする人はそうそういないらしいから確かに有効だと思う。


「身代わりって誰が出来る?こんな面倒な事引き受けてくれる人なんていないと思うんだけど」


「そこなのよね~。自衛できるだけの戦闘力と~ちょっとやそっとじゃどうこうならないような権力も欲しい所なのよね~。それを兼ね備えていると言えばそれこそあのお二人とかなんだけど、引き受けてくれるかどうか~」


「フローラ様、クレハ様。それに関しては私に心当たりがあります」


「「サーラ?」」


 そう言って話に入ってきたのは部屋の隅で控えていたサーラだ。

 するとサーラはアリシアの方を向いて手招きをする。そうして何の警戒心も無く近寄ってきたアリシアが話しに加わる。


「な、何よ?秘密の話?面白い事なら私も混ぜなさいよね!」


「ちょっとボリュームを落として貰えますか?五月蠅いです」


 サーラのアリシアの扱いがどんどん雑になっているような気がするけど……いや、最初からこんな感じだったか。

 でもここに呼んだって事はつまりはアリシアに身代わりを任せるって事よね。確かに冒険者で国の上の方にも顔が効くアリシアなら条件は満たしている。けれど、無関係のアリシアに任せてしまってもいいものか。


 あたしがそんな事を考えている間にサーラが事情を説明する。

 それをふむふむと相槌を打ちながら聞いていたが、説明が終わると間髪入れずに答え出した。


「良いわよ!その役目引き受けてあげる!」


「えっ……こっちが言うのもなんだけど本当にいいの?もしかしたら危険な事に巻き込まれるかもしれないわよ?」


「危険なんて冒険者してればいくらでも経験するわ。それに面白そうだから全然構わないわよ。面白そうな事には積極的に関わっていく。それが長い人生を楽しむコツなのよ!」


「……じゃあお願いするわ。ありがとうアリシア」


「任せてちょうだい!ああでもあの二人には説明しておいた方がいいわよ。全部私がやったことにしてもいいけど、上の方にコネを作っておくのもいつか役に立つわ。それに恩を売って置けるしね」


「ジュリアとフローラだったわよね。クレハの事手伝って自分の上司のこの事説明してきなさい」


「あいよ。じゃあ行くぞクレハ」


「適当にアイテム用意しておいてくれる~?その方が説明が楽だから~」


「了解。程よくレア度の高いアイテムにしておくわ」


 さて、何だか大変な事になってきちゃったけど……これバルドお父様とセレナお母様が帰ってきたらどう説明しようかしら。まさか王都に帰ってきた初日からこんな事になるとは思ってもみなかった。

 適当は言い訳でも考えておこう。





「アリシア、引き受けてくださりありがとうございました」


「な、何よ。サーラが素直にお礼を言うなんて珍しい……初めてじゃない?」


「それはあなたが毎度毎度感謝の気持ちを帳消しにするほどの事をやらかしているからでしょう。まあしかし、今回に関してはあなたが居てくれて助かりました。もしお嬢様が矢面に立つことになった時の事を考えると血の気が引きます」


「話では聞いたけど、確かに凄いスキルよね」


 アリシアは詳細までは聞いていないがさっきの説明でクレハの持つスキルの能力を大まかにではあるが把握している。その為そのスキルの持っている価値についても気づいていた。


「しかし、やけにあの子に入れ込んでいる気がするんだけど気のせいかしら?」


「それはもう私のご主人様ですので。入れ込んでいるというならばそれは当然の事かと思いますが?」


「そう言う事じゃなくて……まあいいわ。あなたってカートゥーン家に仕えているのよね?つまりあの子も普段はカートゥーンの領地にいるんでしょう?」


「そうですが……?」

 

 唐突にそんな話をしてきたアリシアの意図が分からず曖昧な声で答えを返す。

 するとニヤリと口に端を釣り上げて、まるでターゲットを見つけた狩人のような笑みを見せる。


「それじゃあ今受けている依頼を受け終わったら私もそっちに行くわ。あの子、なかなか面白そうなんだもの」


「お嬢様に悪影響なので来ないでください。むしろ里に帰られては?」


「それこそお断りよ!もう~、とっととそっちに行くんだから待ってなさいよね!?」


 こうなってしまってはアリシアが頑固な事はサーラもよく分かっている。 

 この嵐による被害を出来るだけ最小限に抑えるにはどうすべきかという事をサーラは考え始めた。

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