幸運は何度も続かないわよ!

 今日も今日とてガチャガチャ日和、早速あたしはガチャガチャを回す。


 ガラコンッ


 10連ガチャガチャを回した結果出てきたのは、青6、赤2、緑2だった。今は回復系統のアイテムがピックアップ中だったので、青のカプセルが多く出たんだろう。

 そして今日も銀色以上は出なかった。


「やっぱり最初が幸運すぎたのね。あれからめっきり出なくなったもの」


 数日前、虹色のカプセルから『万能工具グローブ』が出てきて以来レア度の高いカプセルは出てこないのだ。やっぱり最初だからいい感じのアイテムが出てきたのかもしれない。ガチャガチャに興味を持ってもらうためにとかね。

 まあそこら辺を深く考えてもしょうがないので、次に回す時に期待して出てきたカプセルをポシェットの中に仕舞っていく。


 そもそも今日でスキルを得てから7日目、つまりこれで無料10連ガチャガチャは引けなくなるんだけど。これからは魔石を用意しないといけなくなる。自分で魔物を狩れば一番早いんだけど、あたしにそんな戦力を期待しても無駄でしかない。正直、運動も魔法もあまり得意ではないので、戦闘とか本当に無理なのだ。


「さて、日課も終わった事だしあっちの方も仕上げちゃわないとね!」


 昨日の夜の事だけど、ようやく反重力術式の解析が終わったのだ!術式の解析が終わってしまえば、そこからはもう自由に出来る。それを使って新しい魔道具を作ってもいいし、術式にさらに改良を加えてもいい。


「そこで活躍するのがこのグローブな訳なのよ!」


 そこで出したるは『万能工具グローブ』だ!これを使えばアイテムの改造の魔道具の作成の思った通に出来るのだ。

 確かに以前にあまり頼らない様にしようと言った。けれど、人は一度便利なものを使ってしまうとそれを手放すことが難しくなる。


 つまりは、使えるものは使っていこう!

 という事だ。


 解析した術式に触れつつ、それの改造案を考えてもらう。

 

 今回改良したいポイントは、反重力術式の範囲だった。指輪に組み込まれていたものは、指輪を付けた者だけというかなり狭い範囲にしか作用しない術式だった。

 使い道に関してはこれからの出来てからのお楽しみだ。


「……ふむ、ここの部分を弄ればいいのね。てっきりこっちを組み替えればいいと思ったのだけど……ああ、それだと向こうと反発しちゃうのか。うん、やっぱりこれ使うと勉強になるわ」


 改造案に出されている通りに術式を組み替えていく。


 今回の作業手順はいたって簡単だ。

 まずは作りたい術式を魔力を使って描いていく。ペンで書いてしまうと書き換え作業が出来なくなってしまうのでまずは魔力を使って描いていくのだ。その時に必要なのが、術式として描いた魔力をとどめておくための仕組みだ。それをするための術式が組み込まれている作業台は以前買ってもらっているので問題なし。

 昨日から書き続けて、ちょっと前にようやく書きあがった所なのだ。さすがに続けて作業をする気力がわかずにガチャガチャに逃げていたのがついさっきのこと。


 そうして書きあがった術式を必要に応じて書き換えていくのが作業の基本となっている。今回はグローブの出してくれた改造案に沿って書き換えを行っていく。

 そうして出来上がった術式を紙におこすなり、魔道具に組み込むなりすれば完成だ。

 今日中に終わればいいんだけど、出来る限り頑張ろう。いざとなれば徹夜も覚悟しなくては!


「させるはずがないでしょう?明日は王都に向けて出発するのですから」


「……あたしは別に何も考えて無いわよ、サーラ」


「『今夜は徹夜だやったー!』という顔をしていたのですが、私の勘違いでしたでしょうか?」


「どうしてそれを――はっ!図ったわね!?」


「いえ、お嬢様が分かりやすすぎるのですが。まあとにかく、徹夜は許しませんからね。夜はきちんと寝てください」


「は~い……」


 明日の荷造り手伝い兼あたしの監視役として送りこまれたサーラにばれてしまっては無理だろう。


「それにしても、よく作業をしながらこっちの受け答えも出来ますね。喋ってる間も一切を手を止めていませんでしたし」


「これぐらいやろうと思えば誰でも出来るわよ。それにいちいち手を止めていたら効率が悪いじゃない。ああ、あとクローゼットの中にある簡易作業台も詰めておいて。出すの忘れてたわ」


「……畏まりました」


 今の所書き換え作業は順調だ。ただほんの少しでもずれが出てしまうと、術式が正常に作動しなくなってしまうのは常識だ。それに加えてかなり複雑な術式でもあるので、緻密さがわをかけている。

 今更ながらに、もうちょっと簡単なアイテムから始めるべきだったと後悔気味だ。


 



 それからも作業を進めていき、ようやく書き換え作業が終了する。

 続けて術式を魔道具に組み込む作業に移ろうとすると、隣から肩を掴まれる。そっちに視線を向ければ、少し疲れた顔のサーラがいた。


「どうしたの?」


「キリがよさそうでしたのでお止めしました。もうすぐ御夕食の時間ですので、そろそろ下に降りませんと」


「あら、もうそんな時間だったの?」


 そういえば部屋のなかが薄暗くなっていることに気がつく。窓の外は既に日が落ちていて、ランプの明かりが部屋の中を照らし出していた。部屋の隅には積みあがった荷物が置かれていて、明日の荷造りはどうやら終わっているようだった。


「荷造りありがとう、サーラ。助かったわ」


「いえ、仕事ですので。それよりもその積みあがった荷物の大半が衣装や化粧品などではなく、本やよく分からない道具なのがなんともお嬢様らしいと言いますか、なんと言いますか」


「だって王都の屋敷には何もないじゃないの。これぐらい持っていかないと暇で死んじゃうわ」


「そんな暇があるといいですけれどね……」


「何か言ったかしら?」


「いえ、それよりも早く食堂に行きましょう。既に皆さまがお待ちですので」


「分かったわ」


 食堂に降りて行けば、既にみんなが待機していてあたしの到着を待っていた。

 足早に自分の席に座って、食事が配膳されるのを待つ。今日の夕食は兎肉の煮込みスープとパン、そして家の家庭菜園でとれた野菜のサラダだった。

 春なので動物の動きが活発なので、この時期はお肉を食べられる機会が多くなるのはちょっと嬉しい。


「そういえば、今やっている魔道具の解析は順調なの?」


「飛行の指輪・改の事ね。一応解析は終わって、ついさっき書き換えも終わったところ。後はあの術式を魔道具に落とし込んでやれば、ひとまず完成って所かしらね」


「もうそこら辺の規格外っぷりには何も言わないけれど。それを使えが空を飛べるようになるのかしら?」


「ううん。今回作ったのは個人を対象としたものじゃなくて、一定の範囲内に反重力を作用させて無重力空間を作りだす魔道具よ。その空間の中でなら空中に浮けるけど、その範囲外では無理って感じよ」


 セレナお母様は空を飛ぶことに興味があるらしく、この間も飛行の指輪を貸して欲しいと言って庭で飛んでいる姿を見たことがある。ちなみにそれに便乗してバルドお父様も一緒に飛んでいた。さらに少し離れた所ではお姉様二人がアイテムを使って模擬戦をしていたが、そっちはどうでもいい。


「その術式は特許をとったりするのかい?反重力なんて今まで聞いた事もないから、間違いなく新種の術式として特許が取れると思うんだけど」


 術式の特許というのは、他の魔道具などでその術式を使う際に他の人はその権利を買わなくちゃいけなくなるのだ。その分のお金は特許の持ち主の所と、登録先である商業ギルドに入ってくる仕組みなのだ。


「特許かぁ……そこら辺はどうでもいいんだけど。別にしなくてもいいんじゃないの?」


「でも、使用料としてお金が入ってくるから単純にお小遣いが増えるぞ?」


「お小遣いが、増える……?」


 という事は、今まで手を出すことが出来なかったあの道具や素材を買う事が出来るようになるかもしれないという事だ。これまでは妥協してワンランクもツーランクも下の素材で作っていた魔道具を完全な形で作ることが出来る。

 正直、かなり魅力的な話だ。


「それじゃあ王都に言ったらギルドに登録しに行こうか。他にもあれば一緒に登録しちゃうけど、何かあるかい?」


「う~ん……今の所はないわね。他のは市販の魔道具の術式の少し手を加えた程度のやつだし」


「そうなのかい?まあでも一応持っていったらどうだい?ひょっとしたら登録できるかもしれないし」


「それもそうね。そうするわ」


 その後はお姉様たちに他に何かいいアイテムが無いかと集られたけど、開けていないので分からないと答えておいた。レア度の高いアイテムも無いしお姉様たちの目を惹くようなアイテムも無いと思ったのだけど、欲しいと言われたので赤いカプセルを渡しておいた。あれなら武器が入っているだろうし、いらなければ返してといっておいたので変な所で広まるようなことも無いだろう。

 セレナお母様からもさりげなく美容液の催促が入ったけど、そればかりは運しだいなのでどうにもならない。前に出たものを気に入ったらしく、次に出たら欲しいと言われたので時間がある時に溜まっているカプセルをチェックしてみることにしよう。


 食事も終わり、そそくさと部屋に戻る。まだ寝る間では時間があるので、ギリギリ魔道具化の作業も終わらせることが出来るはずだ。


 術式を刻み込む媒体とするのは、フレイムドラゴンの爪を加工して作ったネックレスだ。チェーン部分は金属で、飾りの所にそれを付けている。術式を刻みつけるのはもちろん飾りの部分だ。この量の術式を刻むには、それなりの素材が必要になるのでその点フレイムドラゴンの素材は丁度よかった。


「ふぅ~……」


 ここからもまた緻密な作業になるので、一つ深呼吸をしてから取り掛かる。

 さっき仕上げた術式を元にして、専用の杖を使って術式を施していく。今回は直接刻むのではなく、魔力的に刻んでいくやり方なのでまだやり直しがきく。だけどその場合最初からやり直しになるので絶対に失敗しない様に慎重に進めていく。


 感覚としてはスケッチとさほど変わりは無い。ただし細部まで完全に再現しないと発動しないという制限がある。絵を描くのは苦手なので、個人的にはそっちの方がはるかに難易度が高い。というは絵を描ける人は素直に尊敬するわ。


 それから暫く作業を続け、残す所後1割ほどとなった時、ドアがノックされる。


「……誰?」


「サーラです。そろそろ寝ないと明日に響きますので、ベッドに入ってください」


 まずい、あと少しの所で時間が来てしまった。ここで中断することも出来るが、そうすると再開できるのは帰ってきてからという事になる。

 王都に行ってしまえば少なくとも1週間、いや移動時間も含めれば2週間は帰ってこれないかもしれない。それまでこれをお預けにしろと!?そんなことが出来る訳がない!


「分かったわ、サーラ。お休みなさい」


「……随分と素直ですね。まあいいです、お休みなさいお嬢様」


 万が一部屋の中を覗かれることに備えて、一時的に本当にベッドに入る。

 それから扉の外のサーラの気配が消えるのを待ってベッドを抜け出し、作業を再開する。


 なんと完璧な作戦なのだろうか……!


「……『スリープ』」


 なっ、今のは睡眠魔法!?


「サーラ、何をしているの!?」


「お嬢様が素直な時は大抵よからぬ事を考えている時です。ですので、念の為というやつですね。ですが、お嬢様も寝るつもりでしたので問題ないでしょう?」


「仕えている家の……娘に……睡眠魔法…とか…」


「残念、これは奥様からの指示ですので。それではお休みなさいませ、お嬢様」


 あっ!?いま絶対に笑った!?悪役面で絶対にニヤッと笑った!?


「何か不愉快な思考を感じたのでさっさと寝てください。『スリープ』」


「か、かさねがけ……」


 その日の記憶はそこで終わっている。

 次に起きたのは多分朝ぐらい。下からトントンと朝食を作る音が聞こえる。ここ最近では暫く体験していなかった清々しい目覚めだ。

 まあ心中穏やかではないけれど。


「サーラァァ!!ちょっとどこにいるのよ、サーラ!!」


「お呼びですか、お嬢様?」


 こいつ、自分何かしましたかみたいな顔しおってからに!?


「どうしれくれるのよ!まだ作業が終わってないのよ!帰ってくるまでお預けとかあたしには無理よぉぉ!」


「落ち着いてください。私がお嬢様の事を何も考えずに寝かしつけたと本気でお思いですか?」


「思ってるわ!」


「……お察しの通りそれも考えがあってのことです」


 あたしの言葉軽くスルーしたわね?


「皆さまが出発になられるのは朝食後すぐに。つまり朝食を食べてから作業をしている時間はありません。つまり、時間をとれるとしたら朝食の前の時間しかない。ここまで言えば賢いお嬢様ならお分かりですね?」


 ハッとしてカーテンを開けると、外はまだ薄っすらと日が昇ってきたぐらいの時間帯だった。いつも起きている時間よりも3時間近くは早い。


「早寝をして早朝からの作業であれば怒られることもないでしょう。それにスリープの重ね掛けでより質のいい睡眠をとることが出来ているはずです。眠い目を擦って作業するよりも、スッキリとした頭でやった方が効率もいいでしょう?」


「サーラ……その通りね!ありがとうサーラ!」


「では私は朝食の準備に戻りますので、何か御用があればお呼びください」


 そう言って部屋を出ていった。

 まったく、そうならそうと早く言ってくれればいいのに!さすが出来るメイドは違うわね!


 サーラの言った通りスッキリとした頭での作業は想像以上に捗り、朝食前には余裕をもって魔道具を仕上げる事が出来た。

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