あなたにそのアイテムは鬼に金棒だと思うの~

 智神様関連で色々あり、お昼ご飯を食べてから部屋に戻ってきた。ちなみに加護の件については皆には話していない。だって絶対に面倒なことになるから。とりあえず話す必要に迫られるか、バレるまでは黙っておくことにする。


「さて、午後は何をしようか?術式解析の目途は立ってきたしそれの続きをしてもいいんだけど……ああ、そういえば今日の分のガチャガチャを回して無かったわね」


 だけど、これ以上回してもアイテムが飽和しすぎて手が回りそうにない。もちろん回すことはするんだけど、暫くは開けずにしまっておこうと思っている。


「忘れないうちに回しておくことにしましょう。<ステータス>から<ガチャガチャ>発動っと」


 無料10連ガチャガチャを出す。

 そうして10回回して出てきたカプセルの内訳は、赤4つ、緑1つ、青2つ、銀色2、そして虹色が1つだった。


「でちゃったわ……虹色」


 これまでの経験で何となくカプセルの色とレア度の関係が分かってきた

 赤、青、緑は☆1~3、銀色は☆4~5で金色が☆6、虹色が☆7つではないかと考えている。さらにピックアップ関連の排出率から赤が武器・防具系統、緑色が生活お役立ち系アイテム、青色が回復系統のアイテムなんじゃないかと考えている。もちろんまだ確実ではないので、あくまで推測だけどね。


 つまり、虹色という事は☆7のかなりレアなアイテムが出る可能性が高いという事なのだ。

 しかし、さっき開けずにしまっておくと決めたばかりなのに、開ける訳にはっ!


「……1個だけならいいわよね?」

 

 そうだ、1個だけなら大して問題にもならないだろう。何も10個全部を開けるわけじゃないのだ。1個だけ、1個だけなら……!

 それに何か素敵なアイテムが出そうな気がするのだ!


 言い訳は済んだので、開けることにする。

 こういう時は迷っても仕方が無いのだ。直感に従ってみるに限る。


「という訳で、オープン!」


 虹色なので、どの系統のアイテムなのかは分からない。中に入っていたのは手袋だった。しかも金属製のスマートな感じの手袋で、ガントレットではないけど戦闘に使うようなものだと思う。


「ちょっとゴツいわね。これを付けるのはちょっと――」


 とにかく見た目からじゃ効果が分からないので、説明書を読んでみる。

――――――――――――――――――――

アイテム名:万能工具グローブ レア度:☆☆☆☆☆☆☆

必要な時に必要な工具が無くて、作業が滞ってしまったことはありませんか?そんなお悩みを解決するのがこのグローブです!指先があらゆる工具に変形し、太さも大きさも自由自在!さらに、グローブの温度を変える事で温度調整が必要な素材を扱うことも可能に!そしてもう一つのポイントは、魔力を纏わせることで無機物であれば、どんなものでも粘土の様に扱うことが出来るようになるという事です!例えば加工の難しい金属でも、これを使えばどんな形にも加工することが出来る!

ですが、ここで終わりではありません!何とこの手袋で触れた物の構造を知る事ができ、さらに改造案をイメージすれば、その設計図が自動で作られるという充実っぷり!

さあ、これを付けてより洗練されたアイテムを作ってみよう!

――――――――――――――――――――


「――なんて素晴らしいアイテムなのかしら!」


 早速実体化して手に嵌めてみる。そして欲しいと思った工具を念じてみると、グローブの金属がカシャカシャと変化して手にその工具が収まっていた。さらに変化するように念じると、太さや長さ、先の細かい形状も変化する。複数の工具を同時にイメージすれば、全てが同時に出てきて自由に扱う事が出来る。


「……!?……!!」


 興奮してさらに検証を続ける。グローブの温度を変化させて、高温にして机に触ってみると一瞬で焦げ目がつく。どこまで上がるのかやってみると、徐々にグローブの指先が赤く染まり始める。これは不味いか?と思ったが、手に熱は伝わってこないし大丈夫だと思ってさらに続ける。オレンジ色、赤を通りこして白くなり始めたぐらいで止めて再度机に触ってみる。


ジュワッ 「うわっ……!?」


 机は焦げるでもなく、焼けるでもなく。音を立てて木が溶けるようにバターのように指が机に埋っていく。そのまま指を押し込むとあっという間に机の下まで貫通してしまったのだ。


「凄いわね、これ……でもこれって工具として必要な温度なのかしら?」


 まあ深く考えてもしょうがないので、今度は温度を下げていってみる。冷やしていくとグローブを中心に水が氷るぐらいまでは確認出来た。

 そして最後に魔力を込めることで発動する機構を試してみる。


「その前に、検索『無機物』っと」


『無機物についての検索を行います……無機物とは生活機能を持たない物質の事。主に水、空気、鉱物類がこれにあたる』


「ふむ……水も空気も元々柔らかいものだし、鉱物ぐらいにしか使えそうにないわね。後で食器でも貰ってきて検証してみましょう。先に構造解析の方を試しましょうか」


 試しに机に出しっぱなしにしていた飛行の指輪・改に触れてみる。

 すると、その構造情報が頭の中に流れ込んでくる。そのあまりの膨大な量に少し酔ってしまったが、術式すらイメージとして思い浮かべることが出来るようになった。これならいちいち紙に書いていくよりもずっと効率がいい。さすがに術式の詳細については知る事が出来ないようで、ちょっと安心。

 試しに、これを指輪ではなくネックレス型のアイテムにしたいとイメージすればその改造設計図が頭の中に思い浮かぶ。


「……これ、かなり便利なんだけど頼り切ったらダメになりそうね」


 でも有用であることは間違いないのだ。だからこそ頼り切りになってはダメな気がする。何というか自分で考えるという事をしなくていい分、工夫とかそこら辺が出来なくなっていきそうだ。まあ参考程度に使って行こうと思う。

 気分転換も済んだので、そろそろ術式解析の作業に戻ろうと思っているとドアをノックする音が聞こえてきた。


「誰かしら?」


「サーラです。クレハお嬢様、旦那様がお呼びですので書斎までお越しくださいとの事です」


「ああ、分かったわ。ちょっと待って!」


 グローブを外し机の上をパパっと片付けて、身だしなみを軽く整える。

 ドアを開けると外ではサーラが待っていた。サーラは家のメイドの一人で、お姉ちゃんより少し年上のお姉さんだ。あたしにとっても三人目の姉みたいに思っている人で、日々お世話になっている。


「バルドお父様の用事って何かしら?特に予定は無かったはずだけど」


「恐らくお嬢様も5歳になりましたので、王都で開かれるパーティーについてではないでしょうか?」


「パーティー?」


「はい。毎年5歳になった貴族の子どもを集めて王族主催のパーティーが行われるのです。それが時期的にそろそろ開催されるはずなので、そのお話ではないかと。あくまで私の推測になりますが」


 王族主催のパーティー、ね。お姉様たちから話しは聞いた事があるけど、何とも面倒くさそうな催しだ。まあ王城の魔道具とか、料理とかは少し気になるけどそれを差し引いてもパーティーは面倒だ。ドレスはやたらと着るのが疲れるし、礼儀作法についてもとやかく言われる。何よりも嫌なのが。男爵家は爵位が低いからと絡んでくる面倒な貴族がいる事だ。

 あげていけばキリがないけど、つまりは行きたくないということ。


「ものすごく嫌そうな顔をされていますが、とりあえず書斎に行きますよ。きちんと話を聞きにいかないと」


「はい……」


 サーラに付き添われて一階にあるバルドお父様の書斎に向かう。さほど広い家では無いので、書斎までは少し歩けばすぐそこだ。

 先にサーラがノックしてあたしが来たことを知らせる。


「サーラです。クレハお嬢様をお連れしました」


「ああ、待ってたよ。入ってくれ」


「ほら、お嬢様」


「はいはい、分かってるわよ」


 書斎に入ると、正面の大きな机で書類仕事をしているバルドお父様が視界に入ってきた。書斎と言うだけあって、部屋には沢山の本が置かれている。あたしもここの本を借りてよく読んでいるのだ。家の領内でもこれだけ本が揃ってるのはここぐらいだろう。


「失礼します、お父様。お呼びとのことなので来ましたが、何かあったのですか?」


「うん、ちょっと相談があってね。ああ、サーラお茶を持ってきてくれるかい?それとお茶請けがあればそれも」


「畏まりました。少々お待ちください」


 バルドお父様に促されて応接用の横長の椅子に座る。バルドお父様も仕事にひと段落を付けて、あたしの正面の椅子に座る。


「さて、早速だけど呼び出した件について話そうか。実はね、そろそろ王都で今年5歳を迎える貴族の子弟向けのお披露目パーティーがあるんだ」


 ああ、これはサーラの予想が当たっていそうな予感がする。


「そのパーティーがそろそろ開催されるから王都に行くよって相談なんだけど……何でそんなに嫌そうな顔しているの?」


「……絶対に面倒なのが分かりきってるんだもの。普通に行きたくない」


「いや、そんなこと言っても一応これは貴族としての義務だから参加しなくちゃいけないよ。王都へはジュリアとフローラと一緒に行くから、来週になるけどそれまでに準備を済ませておいて欲しいって事がまず一つ」


「一つってことは他にもあるの?」


 てっきり準備しておけぐらいの話だと思っていたんだけど、他にも何かあるのだろうか?特に思いつかないんだけど。


「うん。クレハも来年には王都の学園に通うだろう?それで学園を見学させてもらえることになったんだよ」


「学園の見学、ですの?それって王立学園の事よね?あそこって確か見学とかはしていなかったと思うんだけど」


「それがね、前にクレハが書いた魔法に関する論文を覚えているかい?それが学園の先生の目に留まったらしくてね、それで是非にと向こうから言ってくれたんだよ」


 バルドお父様の言っているのは、去年あたしが書いた無属性魔法に関する論文のことだと思う。でもアレは、この書斎に置いてあった本に書かれていたことに関する疑問点をまとめただけの、論文と呼べるようなものじゃなかったはずなんだけど。アレのどこに目を付けたんだか。


「アレをみたフローラが知り合いに見せて、それが巡り巡って学園の先生の手に渡ったみたいだよ。まあ折角の機会だし行ってみないかい?」


「……まあ通う前に見ておくのもありよね。分かりました。お受けすると伝えておいてください」


「そう言ってくれると思ってたよ!それじゃ行くまでにこの本を読んでおいてね!」


 そう言うとバルドお父様は引き出しから一冊の本を取り出した。かなり分厚くて大きめの本で、机においた時にズシンと重い音が響く。


「……お父様?」


「実は学園からクレハにこの本を読んで感想を聞かせて欲しいと言われていてね~。いや~クレハが話を受けてくれて助かったよ~!」


「もしかして元々選択肢とかありませんでしたよね?最初から話を受けていましたよね?」


「……だって学園長直々の話だったんだ。あの人に言われたら王族でもそう簡単には断れないんだよ?下級貴族の僕達に断れるわけないじゃないか!」


 目を逸らしたかと思えば、半泣きで訴えかけてくるバルドお父様。

 もしあたしが断っていたらどうしていたのか気になるところだけど、いまはそれよりも本が気になる。

 表紙には『魔法使用時の詠唱簡略化について』と書かれている。最初の方のページをぱらぱらとめくれば、詠唱簡略化から詠唱破棄、無詠唱までを目標として書かれていることが分かった。


「結構面白そうね。とりあえずこれは読んでおくから安心して。それじゃああたしは部屋に戻るから」


「ああ、待ってクレハ!せっかくだからお茶でもしていかないかい!?ほら、まだサーラのお茶も来てないし!」


 そうして暫くバルドお父様とお茶とおしゃべりをしてから部屋に戻った。

 お父様と二人で話をするなんて久しぶりな気がしたけど、何時の間にやら領地に関する話になってしまっていた。これにはサーラも苦笑いで、話し終わった後お父様も涙を流していたけど、どうしてだろうか?


 ああ、お茶請けに出てきたお菓子は美味しかった。王都でも有名なクッキーらしくて、滅多に手に入らないのだとか。 

 少しだけ王都に行くのが楽しみになったかもしれない。

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