いや~将来が楽しみな子だったよ

 今度はフローラお姉様が出したカプセルだ。

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アイテム名:クナイ レア度:☆

とある世界の隠密が使用している武器が、このクナイです!基本的には使い捨てとなるますが、拾いに行けば何度も使うことが出来ます!突出して秀でた機能などはありませんが、投擲してよし、短剣替わりにしてよし、暗器としても優秀な一品です!

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アイテム名:俊足シューズ レア度:☆☆

加速の魔法が付与されたこの靴を履けば、いつもよりずっと早く走る事が出来るようになります!キーワード『加速』を唱えることで発動するこの靴は、普段はただの靴として使用可能!履きやすさを追求した構造になっており、長時間の移動でも脚への負担が小さく、疲れにくくなっています!さあ、これを履いて普段とは違う景色を見に行こう!

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 レア度的にはそこまで高くはないけど、なかなかに有用なものだと思う。魔法使いであるフローラお姉様は短剣などの武器しか使わないので、クナイなんかはピッタリだろう。


「んん~ジュリア~。そっちのガントレットとこの靴、交換しない~?」


「おお!いいぞ、そっちの靴の方が欲しいしな!」


「あ、あれ?フローラお姉様がガントレット使うの?」


 魔法使いには無用の長物だと思うんだけど?


「確かにフローラは魔法使いだけど、接近戦も出来るぞ?ただ武器を使う才能は無いから、完全に拳で戦う超接近戦だけどな!これがまた意外と強いでやんの!」


「魔法使いだからって後ろで固定砲台をしている訳じゃないのよ~。接近された時に前衛が来るまで対処するのも後衛の仕事なんだから~」


 ……まあそういうものなんだろう。あたしは戦闘とは無縁だから分からないけどね。武官よりも文官側の人間なんだもの。セレナお母様に似たのかしら。 

 まあそんなことはどうでもよくて、最後に残っているカプセルが一つある。


「……しょうがない。父さん、最後の一個開けていいよ」


「そうね~。私達はもう満足してるし~、お父様だけ何もしていないのはかわいそうだものね~」


「ほ、本当かい!?じゃあ遠慮なく開けさせてもらうよ!」


 そうしてバルドお父様が開けたカプセルから出てきたのは、短い木の棒だった。持ち手の部分とか多少は加工がされているけど、それ以外はほとんど手の加えられていない何の変哲もない木の棒だ。


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アイテム名:4元の指揮者 レア度:☆☆☆☆☆☆

属性魔法が適正が無いと使うことが出来ない、その事実に打ちひしがれてしまったことはありませんか?しかし、この杖を使えばそんなお悩みも解決!火、水、風、土の4つの属性魔法を自在に操る事の出来る杖がこれです!ご自身の魔力を使うことで、どの属性の魔法でも思うがままに使うことが出来ます!しかし、そこで終わらないのがこの杖の凄いところなのです!なんと、杖の素材に神樹・ユグドラシルの枝を使っているため、消費魔力が普通に使うよりも3分の1程度で発動することが出来ます!

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「「「……」」」


「神樹・ユグドラシル!!昔、絵本で読んだことがあるけれど実在したのね!?お父様、その杖あたしに研究させて!」


 バルドお父様の読み上げた説明書を聞いて黙りこくってしまった家族だけど、むしろあたしは大盛り上がり!ポシェットの時もそうだけど、まさかこんなに貴重な素材が使われているなんて、喜ばないはずがない!

 今すぐに調べたいほどには楽しみだ!


「……本当にとんでもないアイテムが出てきたね」


「そ、そうね。これは家宝にでもしてしまっておいた方がいいんじゃないのかしら?」


「さすがにちょっとこれは~。使っている所を見られるのも不味いですね~」


「そうなのか?凄そうなアイテムなんだからむしろ使ったほうがいいんじゃないの?」


「まず属性魔法に対する適正が必要ないって所がヤバいわ~。それに消費魔力が3分の1ってところもヤバすぎるわね~。王都にいる名工が作った作品とか、ダンジョンから出てくるアイテムでもここまでの性能はないもの~。それこそ国が欲しがるレベルの代物よ~」


 フローラお姉様の言葉は少し大げさにも感じるけど、考えてみれば確かにそうだ。王国中を探しても2属性以上の適性を持っているのはそんなにいないし、3属性以上となると、それこそ100人いるかいないか程度だろう。これでも大国と呼ばれているこの国でもそんな状態なのだ。確かにどこの国でも欲しがるかもしれない。

 とはいえ――


「使わないんなら、あたしが貰ってもいいわよね?」


「「「ダメに決まってるでしょ」」」


 結局、杖に関しては家宝として仕舞っておかれることとなった。

 ぐぬぬ、調べさせてくれてからでもいいだろうに。


 長かった朝食の時間も終わり、みんなそれぞれのことを始める。バルドお父様は書類仕事との格闘に執務室に戻って行き、セレナお母様はそのお手伝い。フローラお姉様とジュリアお姉様はフレイムドラゴンの死体を回収するために外に行ってしまった。

 もちろんみんなには、昨日渡そうと思っていたアイテムを渡してある。是非とも役立てて欲しい。


 あたしはというと、自室に戻ってアイテム研究の続きだ。

 当初の目的では最初に出てきたどこでも蛇口を研究するつもりだったのだけど、構造が複雑すぎて今は諦めた。もう少しレア度の低いものから始めようと、☆が一つ少ない『飛行の指輪・改』を調べてみることにした。


「……これが構成術式よね?かなり複雑だけど、少しづつなら読み解けそうかしら」


 そもそもこういったアイテムの研究とはどのような事を指すのかと言うと、基本的には使われている術式を読み解く作業のことを言う。便利なアイテム程その術式は複雑になっていき、難易度も上がっていく。


「本職の人たちならこれぐらい、ちょちょっと読み解くんだろうけど、あたしじゃあそう簡単にはいかないわね」


 術式というのはアイテムに直接刻まれている場合と、魔力的に刻まれている場合の二種類がある。難易度的にはどっちもどっちだが、あたし的には魔力的な方が難しいように感じる。そしてこの指輪や蛇口は魔力的に刻まれているアイテムで、だからこそ時間が掛かりそうなのだ。

 指輪を構成する魔力の流れを追って、それを紙にメモしていく。


「ああ、ここからここまでが反重力っていうものの機構なのね。はぁ~、こんなの一つ一つ読み解いていたらかなり時間がかかるわね……」


 とりあえず昨日の夜から魔力の流れを辿って行った結果、ようやく全ての術式を見ることは出来た。でも本当に見ただけで、何が分かったという訳でもないのだ。

 だけど、これぐらいの方がやりがいがあるというものだ。急ぐわけでもないのだから、じっくりとやって行こう。




 それから数時間、少しづつ術式の解析を進めていきやっと1割ほどを読み解くことが出来た。とはいえ作業自体はまだまだある。全ての術式を読み解いた後は、今度は個別ではなく全体としての意味を読み解かなくてはいけない。偶に入っている一見無駄に見えるような術式でも、大きく見れば意味を持つこともある。

 まあ本当に無駄なだけの可能性も無くはないんだけどね。これまで見てきた魔道具にはそれなりに存在していたのだ。家の領内ではそこら辺の改良を施した魔道具を使っているので、よそのやつよりも多少コスパが良かったりする。ひそかな自慢なのだ。


「なるほど。反重力っていうのは下向きの重力という力を打ち消す力ってことなのね。単純に上向きの力で相殺するのではなく、打ち消しているってところが面白いわね。でもだったらここのところはこうした方がいいと思うんだけど……ああ、やっぱり駄目ね。一度全部読み取ってからじゃないと」


 気が付くとかなりの時間が経過してしまっていたので、少し休憩をすることにする。何処でも蛇口でお湯を汲んでポッドに入れる。


「いつでも適温のお湯が出てくるって言うのは存外に便利ね。領内にも普及させるのは確かに賛成だわ」


 紅茶を一口飲むが、やっぱり自分で入れたものよりもメイドが淹れた方が美味しい。水が異なっていても、素人の手は誤魔化せないようだ。

 次の休憩の時間には持ってきてもらおうと考えながら、ふと自分のステータスを開く。スキルを起動させると、魔石ガチャガチャと無料10連ガチャガチャの二つが並んでいた。


「引いておきたいけど、これ以上アイテムが増えても解析が追い付かないのよね。でも出したらだしたで、すぐに開けたくなるし。でもやっぱり、回さないのはもったいないわよね」


 せめて解析作業の方がもっとスムーズにいけばいいのだけど、こればっかりはあたしの頭の問題だからすぐに改善とはいかない。慣れてくれば違うんだろうけどね。


「さて、どうしようかし――……なに、これ?」


 じっくりとステータスを眺めていて気が付いたのだけど、いつもの称号の他にもう一つ称号が増えているのだ。

 あたしが持っているのは生まれた時に貰ったであろう『男爵家の三女』という称号と『天才』という称号の二つだ。後者の方は、自分が天才などと言われるのは納得がいかないのだけれど家族や使用人は納得したように頷いていた。あたしよりも頭がいい人なんて都会に行けばいくらでもいると思うんだけどね。


 そしてその二つの他にもう一つの称号が増えているのだ。今朝食堂でステータスを見たときは気が付かなかった。


「『智神の加護』って……いつの間にこんな称号を得たのかしら?」


『ようやく認識してくれたね』


「誰?今の声はっ…でも誰もいないわよね」


『そりゃあそっちには声だけを送っているからね。姿が見えないのは当然さ』


「……それで、声だけお化けさんは一体何者なのかしら?」


『はは、声だけお化けか!ごめんごめん、自己紹介が先だったね。僕は智神オーウルディン、その名の通りこの世界で学問、知識、叡智の神とされているものだよ』


 いつの間にかあたしに加護を与えていた神様ご本人が来たってこと?それに智神オーウルディンと言えば世界中の学問を志す者たちが崇めている神だ。


「まさか智神様とは知らず失礼したしました」


『構わないよ。突然お邪魔したのはこっちだからね』


「寛大なお言葉に感謝します。それで、智神様がお出でになられたのは、やはりあたしの加護の事でしょうか?」


『さすがだね、その通りだよ。昨日のガチャガチャで加護を引き当ててからずっと気づかないものだから、ずっとそわそわしていたんだよ』


 ……いま、なんて言った? 

 ガチャガチャで引き当てた?神の加護を?本気で言っているの?


 ふと、昨日開けたカプセルの中で一つだけ中身の無かったものがあったのを思い出す。

 

 真っ黒なカプセルーー


 まさかあれだったのだろうか?


『ガチャガチャについて詳しく話すことは出来ないけど、黒いカプセルは決して外れではないとだけ言っておこうかな』


「……ありがとうございます。知恵の神のお言葉、胸にとどめておきます」


『うん、そうして欲しいかな。それで僕がここに来た目的なんだけど、噂のガチャガチャのスキルを貰った子が僕の加護を授かったと聞いてどんな子か見に来たんだよね。そして実際会ってみたらかなりの逸材でびっくりしたよ』


「そうなのでしょうか?」


『称号で『天才』と認められている子を見るのは本当に久しぶりだよ。それこそ1000年はいなかったんじゃないのかな?しかも当時の彼は研究者として大成した晩年に得ていたんだ。それがまさか5歳の子どもが得ているなんて……正直自分で確認した今でも信じられないよ』


「はぁ、そうなのですか」


 そんな事言われても正直、実感が湧かない。あたしはこの領内から出たことが無いから、領内の世界しか知らない。確かに領内ではそれなりに頭がいい方だと自負している。けれど、そんな大げさに言うほどなのだろか?


『久しぶりに面白いものも見れたし、折角だから何かプレゼントでもしようか!そうだな~……ああ、術式の解析をしていたんだね。ならそれに役立つものでも「ぜひください!」――おお食い気味に来たね』


 貰えるものなら貰っておく。それも今やっている作業に役立つのなら、何が何でも貰っておく!


『それじゃあアイテムは有り余っているみたいだから、スキルにしようか。術式の解析に役立つスキルと言えば……ああ、あれがあったね。それじゃあ、また気が向いたら話しに来るよ。と言っても神としてはあまり干渉しすぎるのは禁止されてるから、暫くは来れないだろうけどね』


「智神様は人間界には無い知識をお持ちだと聞いています。もしまたお会いできるのなら、ぜひともお話をお聞きしたいです」


『もちろんさ!知識を伝えるのも僕の役割だからね。それじゃあ機会があれば、またね!』


 その言葉を最後に声は聞こえなくなった。どうやらオーウルディン様は帰ってしまわれたようだ。それを確認してからステータスを開いてみる。


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名前:クレハ・カートゥーン

年齢:5


スキル:ガチャガチャ アーカイブ

称号:男爵家の三女 天才 智神の加護

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「このアーカイブって言うのが智神様がくれたスキルなのかしら?でも、これもまた聞いた事が無いスキルね。まあでも、術式の解析に役立つって話だったから、そういう系統のスキルなんだろうけどね」


 考えるよりも使ってみる方が早いわよね、ってことでとりあえず使ってみることにする。


「『アーカイブ』っと――」


『スキル・アーカイブの起動を確認しました。アーカイブは神界の大図書館のデータベースに接続するためのスキルとなっています。このスキルのアクセス権限はレベル1まで領域となっています。また、それに伴った演算領域の確保も行われていますのでご自由にお使いください。知識の検索は、声に出して下さればスキルが自動で検索を行います。検索したワードの前に検索とつけて口にしてください。もしくは、頭の中のイメージでも検索可能です』


「ふむ……なるほど。それじゃあ試しに『検索・反重力機構について』」


『反重力機構についての検索を行います……アクセス権限が足りません。別のワードで再度検索してください』


「ダメなのね……それじゃあ飛行の指輪の術式をイメージして――」


『イメージを確認、検索を開始します……術式の個別の役割、並びに術式相互作用を表示します……タブレットの存在を確認、データをタブレットに送信しますか?』


 タブレットにデータが表示されるって認識でいいのかな?だったらそっちの方が見やすいかもしれない。ちょうどベッドの上にほったらかしにしておいてよかった。言われた通りにしてもらうと、タブレットにずらりとデータが表示された。


「ふむ……なるほど、なるほど。ほほう……なんと!?……そういうことだったのね。ああ、でも一部だけ表示されていないのね。ここに関してはアクセス権限が無いってことなんだろうね」


 とにかく、このスキルがあれば術式の解析が捗ること間違いなしだ!

  オーウルディン様ありがとうございます!

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