最終話 帰還 

「悠月殿、松井殿、くるみ殿、迷惑をかけたのう……」

腹をさすりながら、隆元は言う。

隆元はやはり腹を壊してしまった様である。


「隆元様……」

悠月は隆元の体を支えようとする。

「すまんな……。しかし、ようやく、自分で運命を受け入れる決断ができた……」

「隆元様……、ごめんなさい……」

「何を謝ることがある?」

隆元はさっきまで運命に抵抗しようとしていた時とは打って変わり、穏やかな顔である。

脂汗をかいてはいるが。


寝床に隆元の体を横たえる。

「ありがとのう……、休ませてもらうぞ……」

隆元はそう言って目を閉じた。


翌朝。

悠月は目を覚まして、隆元の方を見る。

青白く、息はしていなかった。

「……隆元様?」

声をかけるが、隆元は息を引き取った後である。

「……そうだった。隆元様は未明から朝にかけて死に至るんだったな。なんで忘れていたんだろう」

悠月はそう言って、赤川を急いで呼びに行った。


だが、悠月が部屋から出た瞬間。

急に落下するような感覚に陥った。


悠月はふと気が付くと、そこは……。

現代、令和の世の毛利隆元墓所にいた。


毛利隆元墓所は、現在の安芸高田市にある。

吉田郡山城の麓、そして毛利元就の墓から少し離れたところに建立されているのである。


「……帰って来たのか?」

「悠月!」

「松井、くるみちゃん!?」

「ここは……、令和に帰ってきたの?」

「そうみたいだ」


三人は、立派な隆元の墓を見つめる。

そして、三者三様に手を合わせた。


「どうして、俺たちは戦国の世に呼ばれたんだろうね?」

悠月はふと問いかける。

「……止めて欲しかったのかもしれないわね。未練から暴走しそうな自分を」

「あるいは、見届けて欲しかったのかもしれないな」

くるみと松井はそれぞれ思ったことを言う。


「ありがとう、隆元様」

悠月たちはそれぞれ墓に礼を告げ、それぞれの道へと歩いていく。


そして、一年後の8月3日。

三人は再び毛利隆元墓所へ集まった。


「悠月、なんていうかすごく成績良くなったよな。いざってときはどっしり構えててさ、いざという時はびしっと決めて、まるで隆元様と元就様の合いの子みたいな感じするよ」

「そんなことないって。松井こそ、営業成績が伸びたって聞いたぞ。マネジメントがすげーってな! まるで隆景みたいだ」

「そんなことないって……」

「二人とも、いつまで話してるの?」

くるみは苦笑いしながら言う。

「あ、いけね!」

「そうだったね」

三人は隆元の墓に手を合わせた。

どれだけ手を合わせていただろう?

「さあ、行こうか」

悠月が声をかけ、三人そろって元就の墓へと足を向ける。


『忘れずにいてくれてありがとう』

背後から、隆元の声が聞こえてきたような気がする。

≪完≫

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