第242話 不意打ち

「うーん、結構広い宿なんだな……」

悠月は宿の中を散策しながら言う。

招待してきた和智曰く、この一帯で最も格式が高い宿らしい。

「ん? あれは……?」


悠月は、和智と赤川が話しているのを見かけた。

「では、明日の昼頃にお伺いいたします」

「ええ、こちらもお待ちしておりますよ」

そう言って、二人は別れた。


「昼……? 饗応の支度か……? でも饗応の宴は夜だったはず……」

悠月は怪訝そうに言う。


だが、気にしても仕方がない。

悠月は何も見なかった、と自己解決して散歩に戻る。


その日の夜の事である。

「ど、どうしたんですか!?」

赤川は傷を負って帰ってきていた。

「ああ……、大丈夫だ……」

「いや、その出血量は全然大丈夫じゃないでしょう!」

悠月は慌てて人を呼び、赤川の治療を頼んだ。


「刀傷ですね……」

「誰に襲われたんです?」

「それが、暗くて顔がわからなかった……」

「誰かと一緒にいましたか?」

「ああ、兵といたが……、あやつはケガをせず済んでおる」

「赤川様……」

一緒にいたと思われる兵は、やはり顔色が悪い。


「どうしたんじゃ?」

「赤川さんがケガをしているんです!」

「大丈夫か? これは明日の饗応は取り止めを進言するべきじゃな」

「いえ、お受けした以上は行かねば毛利の家に泥を塗ることとなりましょう」

悠月ははっきりと言う。

「悠月殿の言う通りです、隆元様」

赤川も同じくはっきりと強く言った。

「しかし……」

「あなたは毛利家当主でしょう!」

赤川の言葉に、隆元はハッとする。

「そうじゃ、ワシが行かねばならぬな……!」


隆元は意を決したように言う。

悠月はその様子に少し安堵する。


だが、翌朝。

和智誠春が負傷したという知らせが届いた。

「和智殿まで……!」

悠月はその時、嫌な予感がした。

まさか……、隆元が!?

そう考えざるを得なかった。

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