第241話 逆流の企図

指定された宿に着くなり、隆元は平服に着替える。

「お主らも楽な格好をしておいてええぞ。饗応は明日じゃ」

隆元は赤川や悠月、兵たちにそう声をかける。


「じゃあ、お言葉に甘えて……」

悠月は思い切って着替える。

「しかし、お主……」

「な、なんでしょう? というか、人の着替えを覗きに来るのはどうかと……」

「そもそも、相部屋じゃからな」

そう、隆元と悠月は同じ部屋を使うことになっていたのである。


「思っていたより筋肉が付いておるんじゃな」

「そっちかい!」

思わず悠月はツッコミを入れる。

「そんな貧弱そうに見えるんですか、俺は……」

「まあ、最初に比べたら、体力などは十分ついたように思えるのう」

そう言って、隆元は懐かしそうに目を細める。


「ところでお主……」

「なんでしょう? ……着替え終わるまで少々お待ちいただいても良いですかね?」

「それはええぞ」

悠月が着替えを終えると、隆元は悠月をじっと見る。


「お主は、未来を知っておるよな? ここでワシがどうなるか、教えてはくれまいか?」

「ダメですよ」

悠月はきっぱりと答えた。

「絶対に言えません。例え何があっても」

「左様か……」

隆元は急に刀を抜いた。


「俺を斬るというのなら、お好きにどうぞ」

悠月は驚くほど真っ直ぐな目で言う。

「そんなことするわけなかろう。手入れじゃ」

隆元は、鞘で悠月の頭をぽかりと小突いた。

「いて……!」

「ちょっとからかってみただけじゃ」

隆元は晴れやかな笑顔で言う。


「じゃあ、俺は少し散歩にでも出ます」

「おお、気を付けてな」

隆元は悠月の背中を見送った。


「どう饗応を切り抜けるか、やはりあやつを……」

隆元は悠月のいない部屋でぼそりという。

「ワシはこの饗応の後、命を落とす……、確かあやつはそう言った。父として、子の成長を見れぬまま死なねばならぬのか……?」

隆元はそう言って刀を見る。

「いや、それは流れという物がある……。じゃが、ここで流れを変えてしまえば……」

隆元は一人苦悩する。

知ってはならないはずの歴史を知っている隆元は、やはり自分の未来を受け入れることが苦しくて仕方ない。


隆元は刀を片手に立ち上がった。

決まった『未来』を崩すために……。

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