第239話 悪気のないおイタ

「朝だよー!」

「……いてぇ!!」

幸鶴丸は悠月が眠っている布団にダイビングを決める。

悠月は思わず悲鳴を上げる。


その思わぬ悲鳴に、幸鶴丸は布団の上でびっくりして固まる。

「ど、どうなさいましたか?」

尾崎局は慌てて顔を出す。

「い、いきなり何が飛んできたかと思ったら……」

「こ……、幸鶴丸! 何をしたのですか!」


尾崎局は悠月の様子に、さすがに幸鶴丸が失礼なことをした、と青ざめている。

「ゆづ兄様をお起こししただけですよ」

ニコニコと明るい笑顔で言う。

だが、さすがに悠月の悲鳴からして、許していい状況ではない。

「いけません、幸鶴丸! お起こしするのなら、もっと丁寧にお起こしなさい! 申し訳ありません、悠月さん。お怪我は……」

「あ、だ、大丈夫です……」

悠月は苦笑いして答えた。


「随分とやんちゃしたのう……」

そう言って苦笑いしていたのは……。

「ち、父上……」

さすがの幸鶴丸もハッとする。

これは……、確実に怒られる!

幸鶴丸はしゅん、としおらしい顔をした。


「しかし、幸鶴丸。さすがにおイタにしてはやりすぎじゃ! 人をいたずらに傷つけてはいかんと前から言っておるだろう?」

「ごめんなさい……」

「謝る相手はワシじゃないぞ?」

「はい……」


幸鶴丸は悠月に向き直る。

「ゆづ兄様、ごめんなさい……」

「い、良いけど、いてて……、まず降りような?」

布団の上に座ったままの幸鶴丸に、悠月は穏やかに言う。

「ま、まあ! この子ったら! 本当に重ねてお詫び申し上げます」

「そ、そんなに謝らなくとも。ほ、ほら、子どものしたことというか……」

「いいえ、子のしたことならば親の責任でもあります」

尾崎局は厳しい声で言う。


尾崎局を落ち着かせるまで、一時間はかかっただろう。

ようやく、尾崎局は幸鶴丸と悠月の部屋を後にした。


「ところで隆元様」

「なんじゃ?」

「そんなところにずっと立っていらっしゃるってことは、お話ですかね?」

「そうじゃ。相談したいことがあってな」

悠月は、遂にこの時が来たか、と覚悟を決める。

そんな悠月の心境を移すように、空は暗くなっていた。

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