第238話 伝える躊躇い

隆元は手紙を片手に、ただひたすら悩んでいた。

当主である手前、やはり饗応ともなれば、行くのが最善ではある。

だが、万が一だが……。


饗応の招待をした和智 誠春が毛利家を裏切ろうとしているのなら……。

そう考えると、どうしても出席の返事を返すのが怖くなる。

「あやつならどういたすか……」

隆元は、思い切って悠月にも相談をして見ようと悠月の泊まっている部屋を訪れた。


「グー……グー……」

「よく眠っているな……。今日は幸鶴丸や父上の同行をしてもらっている以上、起こすのもさすがに忍びないな……」

元気な寝息に隆元は起こすことを躊躇い、その場を後にした。

「……朝まで考えてみるか」

隆元は手紙を持て余した。


隆元はふぅ、と小さくため息を吐いた。

決心がつかない……。

優柔不断な自身を嫌悪したくなる。


もちろん、元就にも助言はねだってみた。

だが、自分で決めるべきだと言われている現状である。


隆元の姿が遠のいたのを察知した悠月はそっと目を開け、ぼそりという。

「……これで、良いんだよな」

寝息は、隆元の気配に気づいた為、咄嗟の演技だった。


「隆元様には、本来行くべきだと助言すべきなんだろうけど……」

悠月自身も躊躇いがある。

なぜなら、史実を知っているから。


つまり、隆元が饗応の誘いを受ければどうなるか、悠月自身は知っているのである。

半分は偶発的な事故ともいえる、その事態。

そして、その後に起きる惨劇……。

和智、及び同行した近侍の彼が、どうなるか……。

そして、必然的にしなければならないこと……。

それは、隆元に自分から行くよう仕向ける必要があるということだ。


「苦悩しているのは、俺じゃなくて隆元様なんだけどな」

悠月は自虐的に苦笑いした。

松井が傍にいれば、きっと心配をかけただろう……。


「……いや、悩んでる必要はない……な。明日の朝、助言をと言われたら言えば良い」

悠月はそう心に決めた。

そして、今度こそごろりと床に寝そべった。

「明日こそは……」

そう言って、目を閉じる。

いつの間にか、悠月はぐっすりと眠っていた。

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