第237話 招待状

「ただいま戻ったぞ」

「ただいま……、戻りました……」

幸鶴丸は眠たそうに言う。

幸鶴丸は、まだ遠いお出かけはさほど多いわけでもない。

慣れておらず、疲れてしまったようだ。


「お帰りなさいませ、お義父様、悠月さん、幸鶴丸」

お出迎えをしたのは、尾崎局。

「これ、幸鶴丸。ここで寝てはいけませんよ……」

悠月は幸鶴丸の前にしゃがむ。

「幸鶴丸、乗っていいぞ」

「いえ、いけませんわ」

尾崎局は悠月を止める。


「けど、このままじゃ寝ちゃいそうですから」

悠月は苦笑いしながら言う。

幸鶴丸は悠月の背中にもたれかかった。

「うー……ん」

そのまま、すやすやと幸鶴丸は眠ってしまった。


悠月は笑いながら、幸鶴丸を部屋に送り届ける。

「いけない! お布団を敷いてないわ」

尾崎局は大慌てで悠月の後を追う。


「せわしないのう」

元就は笑いながら、隆元の執務室へと歩いていく。


「隆元、良いか?」

「ああ、父上。お帰りなさいませ」

「政務の方はどうじゃ?」

「ええ、なんとか幸鶴丸との約束は果たせそうでありますな」

「それは何よりじゃ」


「ところで、隆景は何か言っておりましたか?」

「そうじゃな……、幸鶴丸に字を教えてやるようにと言っておったかな」

「まだ早いかとは思っておりましたが……」

「じゃが、好奇心はある様じゃから、今の内と思って伸ばしてやることも良いぞ」

「そうですね……。仕事が落ち着けば、考えましょう」

隆元はそう言って笑った。


「そういえば、先ほど廊下をすれ違った家臣より、隆元へと手紙を渡されたのじゃが」

「はあ……?」

隆元は怪訝そうに手紙を受け取った。

「……饗応の誘い、でございますな……?」

隆元はなんだか胸騒ぎがした。

「行くも行かぬもお主が決めればよい」

元就はそれだけ言って、部屋に戻ろうとした。

「……どうするべきでしょうか」

「それはお主が決めよ。ワシも今日は疲れたから、もう休むぞ」

「はっ、はい。おやすみなさいませ、父上」

隆元は誘いの手紙を片手に、どうするべきかを悩んだ。

胸騒ぎもするが、当主として断るのも罪悪感を覚えるのであった……。

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