第234話 教育論

幸鶴丸と隆景、元就は領地をのんびりと歩いた。

「父上、幸鶴丸はわがままを言ったりはしておりませんか?」

幸鶴丸はぎくりとした顔をする。


「うーむ、そうじゃな……」

幸鶴丸は言わないで、と言わんばかりの目で元就を見、隆景は真偽を問うかのような鋭い目で元就を見つめている。

「些細なおねだりはしておったが、人を困らせるようなことは言っておらんな」

「それならばよろしいのです」

隆景はそう言って幸鶴丸を見る。


「しかし、些細なおねだりでも、場合によっては人の迷惑になる、それは理解しておるか?」

「は、はい! もちろんです、叔父上様」

「それでよろしい」

隆景はふと穏やかな顔に戻る。


幸鶴丸はホッとした顔をした。

「あ、あの、叔父上様」

「なんじゃ?」

「叔父上様、実はお願いがございまして……」

「言ってみよ」

「字を、教えていただけますか?」

「父上……、兄上は子どもの躾をしておるのですか……?」

隆景は困惑しながら言う。


「それが、ほとんど尾崎局に投げている状況じゃ……。政務が立て込んでおるからのう……」

「それはいけませんね」

幸鶴丸はその言葉で、墓穴を掘ったかも……と勘付いた。


「次に吉田郡山城に訪れた際、兄上にもきつく言っておきましょう」

「ほどほどにな」

元就は止めこそしないが、さすがに苦笑いして一言くぎを刺した。


「しかし、幸鶴丸。学ぶ姿勢というものは大切です。その心を大事になさい」

「はい!」

幸鶴丸は笑顔で頷いた。


「では、帰るまでに教えられるだけ文字も教えましょう」

「ありがとうございます、叔父上様!」

「義姉上にも、幸鶴丸に文字の教育をするよう手紙を認めておきます」

「すまんな、隆景」

「いえ」


悠月と松井は、その様子を少し離れたところから見ていた。

「元就様たち三人でこうして話してたら微笑ましいね……」

「……そうだな」

「悠月、どうしたの?」

「……嫌な予感がするんだ」

「そんな感じする?」

悠月は答えず、遠くの空を見るような顔をした。

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