第233話 穏やかな領主

馬を走らせ数時間。

悠月たちは、隆景の城の正面へ来ていた。

「さて、参るかの」

「はい、じじ上様」


幸鶴丸は緊張したかのように少し表情が硬い。

「父上、幸鶴丸……!」

隆景は二人を見つけた。

「隆景叔父上! お久しゅうございます」

幸鶴丸はなるべく笑顔に努める。

「うむ!」

隆景は微笑んだ。


隆景の顔は、普段の穏やかさに加えて、ことさら優しい顔をしていた。

やはり隆景は、家臣や領民の農業を手伝っていた。


「今年はきゅうりがとても良いですね」

だが、現代とは違い、この時代のキュウリは緑色のまま生食するのではない。

黄瓜というように、黄色くなるまで追熟し、とても苦みの強い野菜と言う印象に変えられていったのである。


「きゅうりと言うと……」

「妖怪の河童を思い出すな」

悠月は笑って言う。


河童と言うと、確かにキュウリが好物である。

それを聞いた幸鶴丸は、興味深そうにじっと見ている。

「兄君様たち、河童って何ですか?」

「そうだな……」

「いるかいないか分からない生き物なんだけどね……」


悠月たちは、令和の時点で伝わっている河童の話を幸鶴丸に教えようかとした瞬間。

「幸鶴丸」

「は、はい、叔父上様……」

「そう言った話をむやみやたらと聞いて、人を困らせるのはよしなさい」


隆景は厳しい声で注意する。

「は、はい。申し訳ありません……」

「ああ、俺たちもごめんな」

「ゆづ兄様も謝らなくてよろしいのに……」

隆景は苦笑いして言う。


「相変わらず、幸鶴丸に厳しいのう」

「父上や兄上に何かあれば、幸鶴丸が当主ですから」

隆景はさも当然のように言った。

悠月は隆景の厳しさの裏の愛情や優しさを感じ取った。

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