第232話 蹄の音色

朝食を終えた後の身支度を終えて。

いよいよ、隆景のいる城下町へと出発することになった。


「楽しみですね、じじ上様!」

「そうじゃのう」

「海が見られるなんて!」

「いやそっちかい!」

悠月は思わず突っ込む。


「海は隆景に会ってからじゃ! それに、あまりにも遅くなるようじゃったら、さすがに海には寄っていけぬからな」

「泊まって行ったりはしないのですか?」

「隆元には『今日一日』という約束で話をしてあるんじゃ。外泊はさすがにいかんじゃろ」

「わかりました……。それに、父上が連れて行ってくれるって約束もありますし……」

少ししゅん、として言う幸鶴丸に、元就はうむ、と頷く。


「気を取り直して、いざ出発といたそう」

元就は明るく声をかける。

「はい、じじ上様!」

まだ幸鶴丸は一人で馬に乗ることは困難であった。

元就は自分の前に幸鶴丸を乗せた。


悠月と松井は、それぞれ馬に乗る。

「よしよし、頼むぞ」

馬は悠月の声に返事をするように嘶く。

「さあ、行こうか」

松井は優しく馬に声をかける。

ゆっくりと馬は歩き始めた。


小気味の良い蹄の音が不思議と悠月たちの心を癒していた。

「なんていうかさ……」

「うん?」

「馬の蹄の音って、どうしてこうも癒されるんだろうな?」

「それ、僕も思った!」

「馬も普通に走っておるだけじゃがの」

元就はそう言いつつも、癒される、ということには否定をしなかった。


「もうちょっと早く走れるのかな?」

幸鶴丸は不用意に胴を叩く。

びっくりした馬が暴れそうになった瞬間、元就は慌てて手綱を引いて馬を宥めた。

「どうどう……。これ!幸鶴丸」

「ごめんなさい、じじ上様……」

「いきなり胴を叩いては、馬も驚くんじゃ! 馬も良き物じゃ、次から気を付けるんじゃぞ」

「はい……」

「少し走らせるかの……」

元就はそう言って、馬を走らせる。

「わぁ! 速いですね!」

幸鶴丸は馬の速さに驚きつつ、嬉しそうに言った。

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