第229話 父の苦悩

隆元は、仕事を一段落するまでに一週間はかかった。

「父上―」

「あと少しじゃから、辛抱するんじゃ」

「むぅ~!」

幸鶴丸は楽しみで仕方ないのか、毎日のように隆元へと伺い立てようとする。

「幸鶴丸、父上の邪魔をしてはいけません」

「母上……」

「海に連れて行ってとおねだりしたのは幸鶴丸でしょう? 父上の仕事が終わらないと海に行くことはできませんからね」

「はぁーい……」

幸鶴丸は大人しく引き下がる。


「あなた、いつ頃になりそうかしら?」

「そうせっつくでない……」

隆元は困り顔で言う。

「あと少しなのはわかります。ですが、あまり待たせては幸鶴丸もかわいそうですよ」

「そうじゃな……、来週までには終わらせるようにしよう」

「ええ、ぜひとも」

隆元はこれ以上仕事が増えないことを願いつつ、仕事を着実に片づけていく。


「隆元」

「父上……」

「明日、ワシは城を空けるからの」

「承知いたしました」

「ついでじゃ、幸鶴丸も連れて行こうと思うのじゃが……、どうじゃ?」

「そもそもどちらへ行かれるおつもりですか?」

「隆景のところじゃ」

「ええ、でしたらどうぞ。幸鶴丸も喜ぶとは思います」

隆元はホッとしたように言った。


「では、明日は城の事は頼むからのう」

「はっ、かしこまりました」


「幸鶴丸」

「じじ上様!」

「明日、一緒に出掛けようぞ」

「海ですか? でも、父上は?」

「海ではないぞ。隆景のところじゃ」

幸鶴丸はその言葉にフリーズする。


「今、なんと……?」

「隆景のところじゃ、と言うた」

「隆景叔父上のところですか……。どうしてもいかねばなりませんか?」

「行きたくないのか?」

「い、いえ……。ですが、幸鶴丸は海に行きたいのです……」

「そうじゃな……、少しだけなら海も寄ってやろうかの?」

「でしたら行きます!」

幸鶴丸は明るい声で言う。

「兄君様たちにも声をかけて良いですか?」

「おう、ええぞ」

元就の許しをもらい、幸鶴丸は悠月と松井を探しに行った。

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