第228話 家族サービス
「兄様―、面白いお話を聞かせてください!」
「うーん、面白いか分からないけど良いかな?」
「はい!」
目をらんらんと輝かせる幸鶴丸に、松井はうーん、と悩む。
「そうだ、良いお話を教えてあげよう」
「え? なになに? 何のお話ですかー?」
幸鶴丸の目が輝きを増す。
悠月は、軽く咳払いをした。
「幸鶴丸、海って行ったことあるかなー?」
「なーい!」
「海はな、大きくてずーっと広がってるんだ。青くてきれいなところなんだよ」
「えー! お兄様たちそんなところにずっといたの? 幸鶴丸も行きたかったです……! お兄様や父上たちだけずるい!」
幸鶴丸がむぅ、と頬を膨らませる。
悠月はにやりと笑みを浮かべる。
「幸鶴丸、父上が今度連れてってやるって」
「本当ですか!?」
幸鶴丸は嬉しそうに満面の笑みで隆元を見る。
隆元は尾崎局が出してくれていた湯呑をごとりと落とした。
「な、なんの話じゃ!?」
「海に連れてってくれるんですよね?」
「あ……、ああ……、仕事が落ち着いたら海に行こうぞ」
隆元は苦笑いして言う。
「できぬ約束になさいませんよう。我が子との約束でございますよ?」
尾崎局は冷めた目で隆元にくぎを刺す。
「そうじゃな……」
隆元は苦笑いで応じた。
「海と言うのは、楽しいでしょうか?」
「そうだな、砂浜にはいろんな生き物がいるんだ。ヤドカリとか、カニとか」
「砂浜でお城を作って遊ぶのも楽しいよ。連れて行ってもらったら、一杯遊んでおいで」
松井は穏やかに、だが隆元を牽制するように言った。
「こやつら……」
隆元は笑顔から困り顔に代わっていく。
「あなたが彼らに話をするよう命じたのですよ。ついでですから、私も一緒に行ってもよろしいかしら?」
尾崎局の言葉に、隆元は頷きざるを得なかった。
「まあ、たまにはゆっくり羽を伸ばすもよかろう」
襖が開いたと思うと、そこには元就がいた。
「たまには家族に奉公するがよいぞ、隆元。お主も城を開けることが増えたしのう?」
「それは、父上が……」
「お主も一家の主でもあるんじゃ。たまには妻、子に奉公するも悪くなかろう」
元就の一言に隆元は、本格的に遊びに連れて行く計画を立てざるを得なくなった。
「お主ら、責任を取ってもらうぞ」
「やっぱり、こうなるよね……」
松井と悠月は顔を見合わせて苦笑いした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます