第220話 入れ違い

男の声に返事はない。

「もしかして……、先に移動したんじゃない……?」

「いや、そんなはずはないと思うんだが……」

「もう一回呼んでみたらどうだ?」

悠月は思い切ってそう声をかける。


「隆元様―! いませんか……?」

がさりと草が揺れる。

「ああ、お主か」

そこから顔を出したのは、一人の小柄な兵士。

「隆元様からの言伝を預かっておってな」

「言伝?」

「うむ」

小柄な兵士は胸元から手紙を引っ張り出した。


【任務ご苦労。我らも目標を達成したゆえに、門司港にて合流せんと移動を開始いたす】

「門司港……」

思わぬ場所に、松井は困った顔をした。

「動かず待っていればよかった、ということか」

悠月も難しい顔で言う。


「まあ、ここまで来てしまったが……、戻ればよかろう」

大柄な兵士は苦笑いしながら言う。

「では、我らも門司港へと参りましょう」

小柄な兵士は手紙をしまった。


そして、四人は回れ右をする。

「一人で旅してる時に、行き止まりに迷い込んだような気分だよ……」

悠月が言うと、松井も頷く。

「お主ら、旅が好きなのか?」

「大好きですよ」

「僕も好きだけど……、船にはあまり乗りたくはないかな……」

「吉田郡山城に戻るには、船に乗るしかありませんぞ」

小柄な兵士は笑って言った。


「この調子で歩いて行ければ、明日までにはたどり着くじゃろう」

「今度は先に吉田郡山城に帰った、なんて言伝はないだろうか?」

悠月は怪訝そうに言う。

「それはない……と思います」

小柄な兵士も絶対とは言い切らない。


「うむ?」

「どうされました?」

「あの甲冑は……」

「目が良いですね」

悠月は苦笑いしながら言う。

「間違いない、あの甲冑は……!」

小柄な兵士も同じように声を出した。

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