第215話 ケガ

「何事じゃ!」

元春はつい大声で聞き返す。

「落ち着かんか、元春! して、どうしたんじゃ?」

元就は兵を落ち着かせて話を聞く。


「あいつが……、隆景様配下のあの男が、取り調べ中に暴れ出しまして……、隆景様がケガを……!」

「なに!?」

「なお、男はその場で取り押さえられましたが、自ら自害しようとし、役人にもけがをしている者が出ております!」

「父上……!」

「隆景の容態が心配じゃな……。元春、お主は村へと向かって隆景の様子を見てきてほしい」

「おう!」

元春は刀をもち、馬に飛び乗って村へと走りだす。


「軽いけがで済めばよいのじゃが……」

元就は心配そうに空を仰いだ。

「お主が見た時、隆景はどうじゃった?」

「ケガはされておりましたが、気丈でございました」

「ならば良いが……」


元春は、村に辿り着くなり大急ぎで村の医者を訪ねた。

「弟……、隆景がケガをしたと聞いておる」

「兄上……」

「隆景……! ケガは」

「ハハ、大したことはありません。少し休めばすぐに治ります」

隆景は笑って言う。

「一週間ほどは安静になさるのがよろしいでしょう」

医者は冷静にそう伝えた。


隆景の傷は、刀の切っ先がかすめた程度という。

右腕から出血をしていたが、ケガ自体は軽い。

「兄上、もしかして父上に言われてきてくださったのですか?」

「父上も心配しとるんじゃ」

「後で手紙を書いておきましょう」

「お主の今ケガしておるのが、その右腕なんじゃがな?」

「では、家臣の者に代筆を頼みます」

隆景は笑って言った。


「手紙……、ふむ、手紙か……」

「どうしたんですか、手紙を連呼して」

「今回のバタバタしたものは、全て手紙から始まったな、と思ってな」

「わぁ! 確かにそうですね」

隆景は元春の言葉に驚いたが、穏やかな笑みを浮かべた。

「ゆづ兄様と松兄様、どうやって兄上にお手紙を届けるんでしょうかね?」

「船じゃな。やっぱり」

「松兄様、おいたわしや……」

隆景はそう言って笑った。

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