第214話 帰城
翌朝。
まずは吉田郡山城へと戻ることとなった。
「隆景はあやつに付いておるな」
「じゃあ、俺たちだけで一旦戻りますかね」
悠月の言葉に、松井は頷く。
「そうじゃの。事の顛末は、ワシが父上に話すことにいたそう」
元春は穏やかに言った。
帰路を歩く中、松井は恐る恐る悠月に声をかける。
「なあ、悠月……。その、さ……」
「うん、なんだ?」
「また船で九州に行くことになるんだよな……?」
「地理を考えてみろ」
まだトンネルなどないし、もちろん新幹線なんてものもあるはずがない。
「だ、だよね……」
松井は苦笑いした。
「船酔いするから行きたくない、ってなら吉田郡山城にいろよ」
「い、いや、行くよ!」
さすがに松井も慌てたように言う。
元春はその話を聞き、隣で大笑いしていた。
「ワシは事の顛末を話したのちに、日野山に帰るかの」
「元春様は帰っちゃうんですね」
「もちろんじゃ。本来、この外泊も予定外の事であったしな」
「そ、そうだったんですね……」
悠月は苦笑いした。
まさか元春まで巻き込んでいたとは、思ってもみなかったのである。
元就は、吉田郡山城の城門のすぐ外で立っていた。
「おお、やっと帰って来たのう!」
明るい元就の声に、悠月と松井は顔を見合わせる。
「そういえば、元就様が頼みたいことがあるって言ってたよね……」
「それは、俺が飛び出して行った後の事だろうと思うけど」
「うん、そうだよ」
松井はあっさりと認めた。
「お主ら、無事でよかった」
元就の言葉に、二人は頷いた。
「ただいま戻りました」
二人は声を揃えて挨拶を述べる。
「して、ワシからの依頼は恐らくわかっておるだろうが……」
「はい、隆元様への手紙の配達ですよね」
「そうじゃ。それと、ワシも尾崎殿も輝元も息災であることは改めて伝えて欲しい。隆元は家族の事は特に毎回心配してくれるからの」
「わかりました!」
「それじゃあ、荷物を持ち次第出発します」
「うむ、気を付けての」
二人は大急ぎで旅の荷物を取りに行った。
「元春……」
「ワシから話させてくれ、父上」
元春は口を開こうとした。
「で、伝令―!」
そこに慌てた様子の兵が走ってきた。
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