第213話 犯人 下

男は、役人の到来にふと目を伏せる。

「なぜお主のような者が、このような愚行に手を染めたのだ?」

役人の声に、男は肩を震わせる。


「お待ちください」

飛び出してきたのは、隆景と松井。

「隆景!?」

元春は驚いて声を上げる。

「彼の尋問、私も同席いたします。私の配下ですから」

「それはもちろん、構いません」

「ありがとうございます。……行きましょう。しっかりと話を聞かせていただきます」

役人は男を後ろ手で縛り、連行していく。

隆景もその後に続いた。


「……松井、お前まさか、ずっと後をつけていたのか?」

松井は小さく頷いた。

「……あの投げつけてきた短刀も?」

「悠月を助けたかった、その一心で投げた。けど、まさか逆に状況を悪化させるとは思わなかったんだ……。ごめん」

「状況悪化は、確かに俺の方にも問題があったからお互い様だ……。けど、ずっと後をつけられていたのはさすがに気分が良いもんじゃないぞ」

「……うん、それは反省してる」

松井はシュン、と落ち込んでいた。

「……あの時は気が立っていたとはいえ、ないがしろにしていた。俺が悪かったよ」

松井は思わぬ言葉に顔を上げた。

「ううん、僕こそごめん」

元春は二人の方をがっしりと掴んだ。

「万事解決、じゃな!」

豪快に笑う元春に、二人も思わず笑みがあふれた。


「明日、元就様にも事情を話しに行こうと思う」

「そうだね。心配していたよ、元就様」

「それについて、しっかり謝るさ」

「僕も同罪だからね。一緒に謝るよ」

「まあ、父上はさほど怒りはせんじゃろ」

元春の声に、二人はホッと胸をなでおろす。

「宿に戻るかの。一人増えた、と宿の主にはワシから話しておく」

「ありがとうございます、元春様!」


三人は夕焼け空を眺めながら、宿へと戻っていく。

「そういえば、元就様が言ってたっけ。隆元様へ手紙を渡しに行って欲しいって」

「な、なんでそれ、もっと早く言わないんだよ!」

「僕もうっかり忘れていたよ……」

「また戻って、船頭さん探さないといけないだろ!」

「もう戻っても、船頭の候補になるもんは帰ってしまってるじゃろうから明日にせえ」

元春は苦笑いしながら言った。

「そうですよね……」

悠月は肩をすくめた。

松井はその隣で、苦笑いを浮かべていた。

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