第212話 犯人 中
男は咄嗟に短刀を避ける。
その拍子に、悠月の腕を手放した。
「うわぁあ!」
悠月はそのまま慣性の法則に従って海に落ちる。
「お、おい!」
元春は大急ぎで悠月に手を差し伸べる。
幸いにも、海の浅瀬だったからこそすんなりと悠月は立ち上がることができた。
「びっくりした……!」
「ケガはないか?」
「はい、大丈夫です」
男はどこからともなく飛んできた短刀を掴む。
「ここはワシに任せとけ! 悠月殿、役人を呼んできてくれ!」
「わ、わかりました!」
悠月は走り出す。
だが、服が海水を吸って、上手く走れない。
「お主をこのまま拘束し、どこの手の者か洗いざらい吐いてもらう必要がある様じゃな!」
元春は、男とじりじりと距離を詰める。
「話すことなどございません」
男は短刀を振りかざす。
キン、と金属の音がする。
「なんじゃ……!? 石……!」
男はそれでも短刀を放さなかった。
「どこから石が……」
「松兄様、もう少し下を……!」
「難しいよ……」
松井はもう一度、石を投げつける。
「さすがに短刀を投げつける、なんてのが悪かったな……」
「結果的にゆづ兄様を助けることはできましたけどね」
隆景は苦笑いした。
「さて、と。もう一度!」
ゴツ、という音とともに松井は手ごたえを感じた。
男の手首に石が当たったようである。
「いて!」
男は思わず短刀を取り落とす。
「そこまでじゃ!」
元春は短刀を蹴る。
そして、男を組み敷いて逃げられないよう捕縛する。
「これから、お主には取り調べが待っておる! 覚悟せえ!」
元春は悠月と役人が到着するまで、男を取り押さえていた。
「お、お待たせしました……」
悠月は息を切らせながら、役人と元春の元へとやって来た。
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