第211話 犯人 上

悠月が先導して向かった先は、船着き場。

誠吉の遺体が見つかった場所である。


「ここは船着き場ですな……、なぜここへ?」

「俺は、誠吉さんを殺した犯人を捕まえて役場に突き出す、と誓っていました」

「うむ、その話は確かにその時にも言っておりましたな」

男は頷きながら言う。

「俺の推理、聞いてもらえませんかね?」

「推理……? ふむ、よろしい」

男と元春は悠月に注目する。


「……あそこにいるのか」

松井は遠目で様子を見守る。

「松兄様……」

「大丈夫……、ちゃんと機をうかがって飛び出すから」

悠月に視線を向けつつ、松井は言う。


「まずあの日。前提の条件として、手紙を持っていると知っているのは隆元様、そして九州の毛利軍、同盟相手、俺、松井だけだった。誠吉さんも手紙の存在は知らなかった」

「ふむ……、その前提から推理、とな」

「俺は、小早川家にも出入りすることがある、という前提も付けておく」

「隆景様が、いつも兄様と慕っておられますからな」

男もそこには納得したように言う。

「それで、悠月殿。貴君の推理を話してくれるかの?」

元春は話しやすいように促す。


「ええ。下手人は旅人と考えています」

「下手人は旅人……、とな」

「ええ。特に浪人や武士の旅人である、と推測することができます。誠吉さんの体は、袈裟懸けに斬られていた、そして胸を突き刺されていた……、恐らく、袈裟懸けに斬られた後に、致命傷となった胸を突き刺されていたのでしょう。そして、誠吉さんには抵抗した跡がなく、不意打ちであったことは明白」

「だが、なぜ誠吉を斬る必要があった?」

「知っていたんですよ……、下手人は俺があの船に乗ることを」

「どういった経緯で……?」

元春が頭を傾げる。


「恐らくは、同盟相手の元に潜伏していた裏切り者がいたのでしょう。そして、早馬で手紙が届いたとなれば、知ることは容易です」

「確かに、早馬ならあり得る話じゃ」

「俺は飛脚にも確認してみた。……すると、驚いたことにな……!」

悠月は真っ直ぐと強い瞳で男を見る。


「届け先は、アンタだった! そして、アンタは届いた手紙を目の前で読んで、すぐにその飛脚を使って誰かへと手紙を届けた」

「そ、それは偶然だろう!?」

「いや、違う。そして、その行先は宿屋だった。それも、届けた相手は芸者にしてはいかつい、恐らく浪人だと思われる男だったと証言も取れている!」

「貴様!」

男は悠月の腕を掴んだ。

「えっ……!?」

悠月は驚いて声が上ずる。

その時、どこからか短刀が飛んできた。

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