第210話 ジレンマ

元春と共に、悠月は推理を煮詰めていた。

「間者……、ち、ちなみになんですが……」

「うむ、どうした?」

「間者って、バレた場合はどうなるんでしょう?」

「バレた……、うむ、露見した場合か……」

元春は言って良いのか少し考える。

だが、思い切って口を開いた。

「その武将によるじゃろうな。少なくとも、ただでは済まん。良くて尋問なり拷問なり受けることになり、悪くて死罪じゃな」

だよな……、と悠月は思った。


「あ……、あれは……!?」

松井は、話している元春の姿を見つけた。

「元春様!?」

「あ、兄上! 行きますか? 松兄様」

「う、うん……」

恐らく話している相手は……。

松井はそう思い、気は進まない。

「恐らく、兄上と話しているのはゆづ兄様でしょう。松兄様、ゆづ兄様と和解できる好機です。逃げ回っていたら、いつまでたっても和解はできません。歩み寄らねば」

「あ、ああ……。わかってるよ……」

松井は恐る恐る一歩踏み出す。


物陰から見えた姿は、やはり悠月の姿がある。

「ゆ……!」

悠月、と名前を呼ぼうとした瞬間。

悠月の背後に影ができる。

咄嗟に松井は悠月を庇おうと走り出そうとした。

だが、それは……。

隆景の配下である、あの男であった。


「おう、兄さん! 探していたぞ」

「ああ、うん……。誠吉さんの件で色々と……」

「誠吉の件ですか……。あれ? もう一人は一緒ではなかったですかね?」

「……ええ」

「ふむ、なるほど」


松井は悠月に話しかける男が面識のあるあの男と分かって、結局前に出ることを躊躇ってしまっていた。

「……どうして、僕は……こんなに臆病なんだ!」

「松兄様……」

隆景はどう声をかけていいか分からない。


「誠吉の件で、と言うとお兄さんたちに話があってな」

「奇遇ですね。俺も話があるんです」

悠月はふと不敵な笑みを浮かべる。

「とりあえず、場所を変えましょう」

悠月はそう言って歩き始める。

元春と男はそれに続き、松井と隆景は距離を置きつつ見失わないよう着いて行くことにした。

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