第209話 悠月を追って

「ま、待って、隆景!」

「遅いですよ、松兄様」

隆景はからかうように先を歩く。

一方で、荷物を持っている松井は隆景より歩きが遅い。

「それにしても……、どこ行ったんだか……」

「うわぁ! 松兄様、前!!」

「え?」

松井は突然の声に驚く。


ゴツン!

鋭い音がする。

「ああ……、だから言ったのに……」

隆景は松井に近寄る。

「大丈夫ですか、松兄様?」

「いってて……」

松井は前方不注意で木に衝突していた。

「ああ、荷物! 豪快にやっちゃったな……」

松井は苦笑いする。

「だから前って言ったのに……」

隆景は唇ととがらせて言う。

だが、先に荷物を拾い始めた。

「ごめんって」

松井は苦笑いして言う。


荷物を詰め直し、二人は再び歩き始める。

「早く、悠月と合流したいな」

「その時は、ちゃんと和解をお願いしますよ?」

隆景は穏やかに言った。

だが、穏やかながらも気持ちは厳しい部分もある。

「ああ、もちろん!」

松井は決意を固めて先へ急ぐ。


ところ変わって悠月は、筋道を考えていた。

「多分……、そういうことだろうか?」

「何かわかったかの?」

「うん、多分。……あの男がやっぱり黒幕だと、俺は思う」

「どうしてそう思う?」

「俺や松井は隆景の城とか領地とか、たびたび足を運んでいた」

「確かにのう」

「だから、大抵の家臣は面識があるし、一部は親しいくらいです」

「いつの間に……」

元春はその言葉に苦笑いした。

「けど、あの男は……」

悠月の表情がかなり暗くなる。

「隆景の家臣、と言うのなら面識がない。最近合流したばかりなら仕方ないけど、あの態度は最近合流したとは思えない。それに、尼子が攻めてきた時、似たような男を見たような気がする……」

「それなら、尼子方からの間者が潜り込んだ可能性が極めて高いとみて間違いないかもしれんな」

元春はその言葉に背を押すつもりで言った。

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