第208話 推理

「え?泊まれない……!?」

「へえ、すいません……。今日から旅の方が来ると言われておりまして……。手紙で先に宿泊の予定を入れておりましてね……」

宿場はなかなか空いていない。

どうやら、旅をしながらの劇団の一座がいるという。

「劇の一座か……」

「……現世の謎解きでは、そういう劇団が怪しいって話もありますけどもねぇ」

悠月は苦笑いしながら言う。


だが、悠月はそう言った瞬間に自分の矛盾に気付いた。

「……旅人! そうか!」

「どうしたんじゃ?」

「旅人かもしれません、下手人は……」

「どういう意味じゃ?」

元春は怪訝そうに言う。

「旅人だからこそ、だからだよ」

「うん?」

元春は悠月の言葉に首を傾げた。


結局、村のはずれで何とか宿を確保することはできた。

村まではかなり歩くことにはなりそうだが、やむをえまい、と二人は思っていた。


「して、お主はどうして旅人だからこそ、と言うたか教えてはくれぬか?」

「ええ、もちろん」

元春に、悠月は自分の考えを披露する。


もし、旅をした暗殺者ならば。

手を下した後に一泊して、そのまま雑踏に紛れて去ることもできる。

郷里の者ではないのだから、その場にむやみやたらと残る必要はない。

その場の混乱から逃れる事だってできるだろう。

と、悠月は思ったからこそ、下手人は旅人だと考えたのである。


「ふむ、確かにそれは一理あるのやもしれんな」

「まあ、俺の考えで証拠も何もないから、決定的に捕まえることは難しいですけどね」

悠月の言葉に、確かにな、と元春も頷く。

「それでも、俺は下手人こそこの道理、と考えてます」

「それは一体……?」

「つまり、黒幕は別にいる、と思います」

「なるほどのう」


悠月は何となく言動の怪しい人物を察していた。

「隆景がこの場にいなくて良かったのかもしれない」

「どうして景が出てくるんじゃ?」

元春は不思議そうに言う。

「俺の推理が当たっているのなら……、恐らくは……」

悠月は目を伏せがちに言う。

元春は悠月を信じて何も言わなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る