第206話 松井の道
取り残された松井は、ただ呆然と立ち尽くした。
「……もう、悠月のことなど」
「諦めるんですか?……和解も、再会も、何もかもを」
「……そ、それは……!」
背後から姿を現したのは、険しい顔をした隆景であった。
「諦めるのは簡単なことですよ、松兄様」
「まだ、そんなつもりは!」
「けど、今の状態で松兄様はどうしたいのか、私にはわかりません」
追いかけもせず、戻るわけでもなく。
ただその場に立ち尽くしているのだから、隆景もそう言わざるを得なくなった。
「どうしろ、と言いたいの?」
「さあ。それは松兄様の心にお尋ねください。私は手伝いならば喜んでしますが、行き先を決めるべきは松兄様なのですよ」
「それも、そうだよね……」
松井は困ったように座り込む。
「恐らく、ゆづ兄様も今はかなり気が立っていると思います」
「そうだろうね……。僕の話も聞いてくれなかったくらいだ」
「落ち着く時間も必要かもしれません」
松井は頷いて、吉田郡山城に引き返そうと足を踏み出す。
「松兄様?」
「……僕もあの村に行くよ。でも、その前に準備をしておきたい。いざという時の為に」
「分かりました。私も付いていきます」
松井は頷いた。
「僕も、そろそろ心を決めるよ」
松井は誰にともなく言った。
隆景はそれを聞いても、何も答えずただ後をついて歩いただけである。
「おお、ここにおったのか!」
城内に入ると同時に、元就は松井に近寄る。
「うむ? 悠月殿はどこじゃ?」
「悠月は……」
隆景はハッとして元就の腕を引く。
「どうした、隆景?」
「実は……」
隆景はやむを得ず話しても差しさわりはないと判断した一部を話す。
「ケンカ!? 珍しいこともあるもんじゃ……」
元就は驚いていた。
二人はいつも仲が良いのだから、一緒だろうと勝手に思い込んでいたのである。
「まあ、それなら明日か明後日なら良いかの?」
「それまでに解決するよう、私も尽力します」
隆景はそう言って苦笑いした。
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