第205話 元春の優しさ

元春はただ見守っているだけである。

悠月が恐らく先に行こうと、それを見守り、元就に報告するだけのつもりらしい。


「……元春様はさ」

「うむ……」

「自分のせいで家臣が亡くなったりとかしたら、どうしますか?」

「……弔う。それ以上の事はできぬよ。戦で命を落とすものは何十人も何百人もおるからな」

「……そうですか」


元春はその言葉で、気が付いた。

「なるほど、誰ぞかゴタゴタに巻き込まれて命を落としたのか……」

「……はい」

「それならば、確かにお主は気に病むことじゃろうな」

「それに、松井ともケンカをしてしまったし……」

「なるほどのう……、それで一人だったというわけじゃな。あと、頬が赤かったのもそういった意味でか」

元春は思わず笑い出した。


「な、なんで笑うんですか!」

「いや、よほど親しいと思っておったお主らもケンカをすると思うと面白くてな……」

ハハハ、と元春は豪快に笑っている。

「他人事ですもんね!」

悠月はふてくされたように言う。


「なんというか、幼き日に兄上や隆景とケンカした日を思い出すわい」

「……でも、飛び出して口を利かないなんてことにはならなかったでしょうよ」

「まあ、ワシらは当時幼子じゃったからな」

元春はどことなく懐かしく思いながら言う。


「しかし、仇討はワシも賛成できぬぞ」

「仇討はしません! ……捕まえて、役人に引き渡します」

「丸腰でか?」

「……そうです」

「しかし、それではお主が返り討ちに遭うのがせいぜいじゃ。用心棒、としてワシが付いていくというのはどうじゃ?」

「……でも、良いんですか?」

「なにがじゃ?」

「日野山城の城主が、こんな私用に付き合ってしまって」

「なに、構わん。父上からもむしろ頼まれておるくらいじゃ」


改めて、悠月は元就がどこまで知っているのか、と少し怖くなった。

「けど、お主のその正義感、ワシは気に入っておるぞ」

元春は悠月に笑顔を向けた。

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