第204話 松井の怒り

飛び出して行く悠月を、松井は必死に追いかける。

「おい、悠月! 待ってって!」

「松井……、吉田郡山城に戻ってろよ」

「はぁ!?」

松井はようやく悠月に追いつく。

「一人にしてくれ!」

松井はその言葉にカッとなる。


バチン!

鋭い音が空を切る。

悠月の頬が赤くなる。


「まつ……!?」

「一人にできるわけないだろう!」

松井は厳しい口調で言う。

「もっと周りを頼ったっていい!」

「……ごめん」

「それはどういうことに対して『ごめん』って言ってるの? 説明できる?」

悠月は松井を直視できない。

悠月は松井の手を振り払って、そのまま走って行った。


「あ……! 待てって悠月!」

松井の声を振り切るように走り去っていく悠月に、松井は呆然と立ち尽くした。

「……思わず叩いちゃったな……。どうしたものか……」

松井は冷静になろうと深呼吸する。

恐らく、誠吉の件を解決したいが為に、悠月は必死だったのだと、少し落ち着いてようやく理解した。

「僕がしっかり支えたい、そう思ってたのに……」

だが、時間が巻き戻ることはない。


悠月は松井から離れたいがために、ひたすら走っていた。

「松井もみんなも、これ以上巻き込みたくはない! もし誠吉さんみたいになったら……」

悠月の脳裏に、驚いた顔をしたまま息絶えていた誠吉の顔が浮かぶ。

「俺のせいだ……。俺が手紙を落としたりしなかったら、こんな……」

グッと握りこぶしを作る。

強く握りすぎて、手からじんわりと血がにじむ。


「……そうだ、もうこのままいっそ、一人で過ごそう」

「一人で過ごしてどうする?」

「え!?」

悠月は思わず振り返る。


そこにいたのは、元春であった。

「どうして……」

「父上からの命令で、ここに来ておったんじゃ」

「そうだったんですね……」

「とりあえず、その頬を何とかせんとな」

元春は川で布を冷やし、悠月の頬に押し当てる。

「話なら聞いてやる。けど、思い詰める必要はない」

無理に手を掴んだり、引き留めようとする気はないらしい。

元春はただ横に座っただけであった。

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