第178話 別動隊

時は少し前の話。

隆景が門司城を奇襲した翌日の事である。

隆元は、自ら軍を率いて九州へと上陸していた。


「うう……、まだ……気持ち悪い……」

「本当、船には弱いな……」

仮の陣屋で船酔いした松井を介抱しつつ、悠月は苦笑いした。

「悠月……、平気なの……?」

「俺は元々乗り物酔いとは全くの無縁でね。神戸から夜行船に乗って福岡まで旅をしたこともあるし、神戸や呉なんかで遊覧船で大はしゃぎしたこともあれば、愛知から飛行機で九州まで行ったこともある。もちろん、全部一人で」

「悠月と僕の三半規管を交換してほしいよ……」

「無茶言うな!」

悠月はそう言って笑った。

松井もまだ少し具合が悪そうだが、ニヤッと笑っている。


「それくらい笑えるんじゃったら、もう大丈夫かのう?」

「……吐いても良いなら、動けます……」

「もう少し横になっておれ」

隆元は松井の返答に困り顔で返した。


「しかし、門司城の方面が騒がしいな……」

悠月がさりげなく言う。

「どうやら、奇襲があったようだ」

隆元は状況的に何となく把握はした。

「奇襲でございますか……」

傍にいた兵が言う。

「恐らく、父上が先日隆景を吉田郡山城へと呼んだ時に、奇襲の事でも話しておったのだろう」

隆元は隆景が吉田郡山城へと来ていたことを思い出して言う。


「なるほど、混乱に乗じて、ワシらを九州に上陸させて標的を拡散させた、というわけか……。父上らしい策じゃ」

隆元は感心したように言う。


「さて、ワシらの任務を再確認いたすぞ」

隆元はそう言って将兵らを集める。


「ワシらは、大友軍を攻めるべく、まずは近隣の将兵らの調略じゃ。門司からならほど近い、豊前や筑前の者どもを調略するがよいじゃろう」

「ほど近い……」

悠月は現代の新門司港には立ち寄ったことがある。

そして、筑前と言えば現代の福岡県。

新門司港は北九州市に、筑前と言えば福岡市内近辺を指すはずである。


北九州から福岡市内……、電車とか新幹線使う距離じゃん!

もちろん、戦国時代に電車はもちろんの事、新幹線などあるはずがない。

悠月は何とも言えない表情をしながら内心でツッコミを入れた。

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