第177話 代変わり

村上通康の訃報が隆景の耳に入ったのは、数日後のことであった。

「通康殿が、亡くなった……!?」

「はい……。どうやら、病によるもののようです」

「やはり、あの時……!」

隆景は後悔の念に捕らわれた。


来島村上水軍へと協力を要請しなければ……!

そう考えていた。

「父は穏やかな顔をしておりました……」

村上通康に寄り添っていた若者はそう告げた。


彼の名は、得居とくい通幸みちゆき

村上通康の庶長子で得居家の養子である。

通幸の養家は、南北朝時代の伊予の名門得能氏と土居氏との子孫であるため、その両姓をとって「得居」を氏として名乗っていた。


「そして、もう一つ隆景様にはお伝えせねばなりません。さあ、こちらへ」

おずおずと、まだ齢10にも満たない男の子が出てくる。


「父の死に伴い、弟である通総みちふさが我ら来島村上水軍を率いることとなります。もちろん、補佐は私や、家臣たちが行います」

「兄上……」

まだ幼い通総は戸惑いを隠せない。

何をどうして良いのか、困っているようだ。


「通総、まずはご挨拶を」

「は、はい!」

まだまだ作法などはぎこちない。

「む、村上通総でございます」

「うむ、よくできました。私は小早川家当主、隆景じゃ。よろしゅう頼むぞ」

隆景は笑顔で言う。


隆景は、通康へと手向ける供物を用意し、兵たちに届けさせた。

「通康殿へ、これを……」

「義父様……」

通康の妻であり、隆景の養女である永寿えいじゅは驚いていた。


「一度、小早川家に戻りなさい」

隆景はそう言った。

乱世の時世の運命だ、と永寿は夫の喪が明けてから小早川家に戻った。


それから、間もなくである。

再び、彼女は嫁いで行った。

村上通康を重用していた、河野 通宣の元へと。


「これで……良かったんですよ」

隆景は少し心配そうだが、そうつぶやいた。

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