第171話 新しい風

「新しい風、かぁ……」

「元就様が隠居するとか、幸鶴丸が元服するとか、歴史に大きな変化が起きる風がそろそろ吹いてきてもおかしくない頃合いだって話さ」

「そういうのは、目には見えないから分からない部分だよね……」

「確かに」

悠月はそう言って考えてしまう。


「元就様とかには言えないことだよね」

「ああ。先を知っている話こそ最大のタブーなはずだ」

「やっぱりそうなんだ……」

「……そうやって考えると、本来俺たちがいることこそおかしいんだけどな」

悠月は苦笑いして答えた。

「そこは考えないようにしよう」

松井も苦笑いで答えた。


「……もう帰ってきちゃったな」

「そうだな」

話ながら歩いていると、思ったよりも散歩はあっという間に終わった。


「松井」

「ん?なんだい?」

「また話したいことがあれば、一緒に散歩するか」

「うん、もちろんさ」

松井は笑顔で応じた。


悠月が散歩しながら、というのは。

誰かに聞かれたくないからという側面もある。

だが、悠月がそもそも散歩など歩くということが好きだからでもある。


「朝じゃぞー!」

隆元は隆景を起こしにやって来た。

「ん……、もう……朝ですか」

眠たそうに言う隆景を、隆元は笑った。

「遅くまで起きておるからこうなるんじゃ」

「兄上が早すぎるんですよ……」

目を擦りながら隆景は体を起こす。

「よしよし、おはようさん」

隆元はそう言って隆景の頭を撫でる。

「支度します……」

隆景はそう言って、着替えを始めようとする。

隆元はその様子を見て退室した。


「お主ら、朝……いない!」

「あ、隆元様。おはようございます」

松井は笑顔で声をかける。

悠月は眠そうに眼をこすった。

「おお、おはようさん。朝餉ももうじきできるじゃろう」

隆元はそう言って声をかけた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る