第170話 頼ってよ!

朝になり、松井はふと目を覚ます。

隣には、もぬけの殻となった布団がある。

「悠月……?」

松井はハッとして服を着替える。

悠月は近頃、あまり寝つきが良くない。

何か考え込んでいるのだ、と松井は感じ取っていた。


「お、松井。おはよ」

悠月は城門の付近を歩いていた。

「悠月、おはよう……」

「どうした、血相変えてさ」

「……急にいなくなったから、びっくりしただけだよ」

「そうか、ごめん」

悠月はそう言うだけだった。


「悩みごと? 僕で良ければ聞くからさ」

「ああ、その時は頼む」

「……今は大丈夫、ってこと? 黙って散歩に出るなんて今までなかったくせに」

「たまにはそう言う日もあるって」

「どうして僕を頼ってくれないんだ?」

「そんなことはないだろ? 松井には頼りっぱなしだし」

「どこが?」

「ケガをしたらいつも治療してくれるだろ? しょっちゅう傷まみれになってるから、助かってるし。少し弱音に付き合ってくれる時もあるし」

「それだけだろう?」

「……そうかもな」


松井はポスッ、と軽く悠月の胸板を叩いた。

「いてっ!」

「抱え込みすぎるな、ってどの口が言うんだって僕は思うんだけど?」

「ハハ、今はいい、本当に大丈夫だからさ。けど、言える時になったら、存分に言うから」

「……わかったよ」

松井は渋々、手を降ろした。


「それはそうと。散歩、行くか?」

「はいはい……」

松井は苦笑いして散歩に付き合う。


「そういえば……」

「ん? どうした?」

「僕たち、いつになったら元の時代へ戻れるのだろう?」

「ハハ、同じこと考えてたな」

「え?」

「くるみちゃんと俺は、隆元様の導きで歴史を見守る、そういう理由でここへ連れてこられた。松井はその時、どういうわけか尼子に付いてたけど。けど、歴史を見守るのならもうそろそろ新しい風が吹くはずだ……」

「そうなのかもね……」


悠月は何となく不穏な空気を感じ取った。

小さくぶるりと身震いをした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る