第161話 温湯城、陥落

小笠原は家臣を大広間へと集めていた。

そして、口を開く。


「本来であれば、皆に意見を集うべき時じゃと思う。けど、相すまぬ! 此度はわしなりの意見を言いたく思う。反対する者は好きにして構わぬ」

家臣たちは、思わぬ言葉に固唾を飲む。


「まさに外を囲う毛利軍よりこのような文が届いた」

小笠原は手紙を掲げた。

「降伏すれば、皆の命は助かる。ワシもここからは出て行かねばならないが、命は保証すると約束がある。それに、ワシはもう皆が傷つくところを見とうない! ゆえに、この城は明け渡すつもりでおる」

小笠原の言葉に、家臣たちはシン、と静まり返る。


不安になる小笠原の前に、家臣たちは声を上げる。

「小笠原殿! さすがにそれは……」

「否! 英断にござりまする!」

「ワシは領民が傷つくのをもう見たくない! これぞ英断じゃ!」

家臣たちの間でも、やはり意見が割れる。


「やはり……、こうなるか」

小笠原は困り顔で言う。


だが、小笠原は言い切らぬばならない。

彼自身が決めたことを。


「すまぬのう、みな」

その言葉に、家臣たちは小笠原へと向き直る。

「この城は、毛利軍へ引き渡すこととする!」

家臣たちはその言葉に、驚きを隠せない。


「か、考え直してください!」

「ご冗談を……、殿、冗談ですよね?」

「否、本気である」

小笠原はきっぱりと告げた。


彼は水位が下がってから、家臣や町の領民たちに知らせを出した。

「殿さまが代わるのか……」

「優しい人が良いな」

町民たちはしみじみという。


毛利は温湯城を支配することに成功し、元就一行は一度温湯城で羽休めをしてから、次の場へと向かうこととした。

「焦りは大敵じゃからな」

「左様ですな、父上」

再びの山吹城奪取に向けて、一つ足掛かりができた。

元就はそう思っていた……。

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