第162話 鉄壁攻略法

元就たちは、条件として出した文言の通り町民たちを労り、小笠原の家臣たちにも元々いた家臣と同様に普通に接した。

だが、小笠原本人には甘南備寺へと向かうよう要請した。


「元春」

「おう、どうした父上?」

「お主に、この地の半分を治めて欲しいと思っておる」

「また唐突に……。まあ、ええけども」

元春は唐突にだが、小笠原の領土の半分が与えられた。


元就は、恐らく山吹城は守りが硬いことを見抜いていた。

「皆、良いかの?」

「なんじゃ?」

息子たち、悠月、松井、そして小笠原と小笠原の家臣を招集する。


「ワシが考えるに、山吹城は鉄壁の守りじゃろう。戦力を削ぐために、この近辺の尼子の領土を落としておこうと思う」

「陽動ですか?」

隆景は悟ったように言う。

「なるほど……」

隆元と元春は納得したようだ。


「どういう意味なんだい? 悠月」

「周辺の城が攻撃されているとなれば、援軍を要請するのが普通の流れだろ?」

「それは、まあ……。城を攻め落とされても困るし、兵たちも傷つくから助けるのは当たり前だよね……」

「大抵、援軍を呼ぶなら近隣の城からの方が手っ取り早い。ここまで言えばわかるな?」

「なるほど、それで山吹城は手薄になっていく、ということか!」

「そういうことだ。手薄になれば、鉄壁の防御力も少しは衰える」

「確かに、そうすれば山吹城の陥落も視野に入ってくるね」

松井は納得したようで表情も明るい。


「じゃが、そううまくいくかはわからんがの……」

「物事は全て順調、とは参りませぬからの」

小笠原は控えめに言う。

「その通りじゃ」

元就は頷いた。


元就が作戦通り采配を振ろうとした瞬間である。

「元就様―!」

元就の影武者、武田小三郎が物陰から制止する。

「なんじゃ!?」

「大至急、お耳に入れたきことがございます」

「言うてみろ」


「豊前国の拠点である門司城を大友義鎮が攻め始めた、と情報が入っております!」

「次の敵は九州の大友じゃと!?」

「左様にございます」

「うむ、相分かった」

元就は攻撃の命令を中止した。

「みな、安芸へと引き上げるぞ!」

この時、隆元は知らなかった。

心の古傷をえぐられる出来事が起きようとは……。

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