第150話 来訪者

空は青々としている。

「それにしても、昨日の雨が嘘みたいだ」

「本当。晴れてよかったわ。洗濯ものが溜まっちゃって……」

この時代にもちろん洗濯機なんて便利なものはなく手洗いである。

くるみも城内の雑事は手伝いしているとはいえ、やはり山吹城から退去した人々の分がある。

洗濯ものは相当量で毎度一苦労だと言う。


ガサガサと木々が揺れる音がする。

「うわ、な、なんだ!?」

悠月は松井とくるみを下がらせて、拾った木の棒を握り、正眼に構える。


「何しとるんじゃ、お主ら?」

そこにいたのは……、馬を引いて歩いている元春であった。


「……びっくりしたぁ」

「それはこっちのセリフじゃ。木の棒を降ろしてくれ、お主らに攻撃するつもりはないんじゃからな!」

「おっと、ごめんなさい」

悠月は木の棒を下げた。


「で、お主らは何をしていたんじゃ?」

「散歩ですよ」

「気分転換に、って悠月に誘われて」

「同じくです」

「まあ、吉田郡山城は山の中の城じゃから、散歩することには事欠かんからの」

元春も明るく言う。


「ちなみに、元春様は?」

「ああ、ワシは父上に顔出しに来たんじゃ。兄上や幸鶴丸にもの」

「そうなんですね。あれ? 奥方様は?」

松井は悪気なく聞いた。


「……新庄は兄上の嫁君である尾崎殿とのは親しいが、隆家殿に嫁いだ姉上と超不仲でな。多分今日なら隆家殿もおるはずじゃし、義父上もいらっしゃる予定じゃから留守居をすると言っておってな」

「そうだったんですね……」

松井は納得したようだ。


「けど、吉田郡山城で隆家殿は見かけてないよね?」

「ああ、確かに。今日は見かけてないな……」

悠月も松井の言葉に頷いた。

「そうだったんか……。手紙が遅れておったのかもしれんな……」

どうやら、元春は先だって手紙を出していたようだ。

「手紙?」

「父上にこの日に会えれば良いと思う、と言った内容の手紙を出しておいたんじゃが……」

「ああ、なるほど」


元春がなぜ父親の元を訪ねてきたのか、三人は聞く勇気が消えた。

戦の相談、というわけではなさそうだからだ。

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