第147話 炊き出し

銀山より毛利軍は撤退するが、その前に寄らねばならない場所がある。

尼子に山吹城を占拠された以上、すぐに銀山の所有権は尼子の物になる。


「鉱夫のみんな、大丈夫だろうか……」

松井は心配そうに言う。

「あまり酷いことはできないさ。鉱夫の働きで銀が収穫でき、収益となるの循環を繰り返すんだから」

悠月は松井に穏やかに言った。

「それより、僕は鉛中毒に対しても心配なんだからね!」

「鉛中毒に関しては、俺も門外漢だから何とも言えん」

悠月は困り顔で言った。

松井は薬局のスタッフで多少の医学知識があるが、悠月は医学に対して全くといって良いほど無縁だからである。


山吹城では、包囲こそ緩んでいたが旧城主である刺賀の配下たちは山吹城から追い払われていた。

吉田郡山城で匿ってもらえ、と刺賀の遺書があったからである。

あくまで尼子軍の世話になれ、ではなく、吉田郡山城の毛利元就の世話になれ、なのである。


「吉田郡山城で……」

「ということは、毛利様かえ?」

「ああ、そうなるはずじゃ」

「しかし、本当に来るのかね? 毛利様は」

若武者が怪しんでいると、馬の影ができる。

「毛利の若様じゃ!」

「隆元様! よういらっしゃいました!」

怪しんでいた若者はコロっと態度を変える。


「我が吉田郡山城にみなを連れて戻ることになるが、まずは食事だ。皆、腹が減っておるだろう?」

隆元の先導で、銀山の村へと向かう。

村では、元就の計らいで炊き出しが行われていた。


「みな、よう頑張った!まずは胃に物を収めよ。まずは女子供と老人からじゃ」

元就は体力的に弱っているであろう女子供、老人へ先に食べさせる。

その後で、男や兵たちに食事を摂らせた。

兵より民を優先させる元就に、兵たちも感銘を受けた。


「なんと慈悲深い……!」

「これは隆元に言われたことじゃ」

隆元は恥ずかしそうに背を向けた。

ほんのりと頬は赤みがさしている。

「隆元様、ありがとうございます!」

兵たちは隆元へと礼を言いに走る。

「苦しむ者がおれば手を差し伸べる、当然のことをしたまでじゃ」

隆元は早口で答えた。


照れる隆元に松井と悠月は遠くからにやりと笑うのであった……。

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