第146話 山吹城陥落

「して、山吹城の救援はどうするが最善じゃと思う?」

「それは、包囲網をどこか破ること……、ですが、現状難しくないですか?」

「そうじゃな」

「もしくは、救援物資の輸送……、でも、これは見つかったら終わりだよなぁ……」


「ねえ、大砲みたいなもので物を打ち上げるとかは? 火薬の代わりに物資を入れてさ」松井は悠月の書いた情報を見ながらしれっと話に混ざる。

「その突飛な発想はどこから出てきた!?」

思わぬ言葉に悠月はツッコむ。

「できる物なのか?」

隆元は興味深そうに聞く。

「やるとしても、多少なりと火薬は必要ですし……、多分最終的には火の玉が飛んでいくことになると思います……」

「じゃあ、意味ないね」

松井は苦笑いした。

「その発想に俺は驚いてるよ……」

悠月は苦笑いする松井を小突いた。

「へへっ、でもこういう突飛な考えもときには大事だよ。そうだろう?」

「まあ、そこは否定しないよ」

悠月は松井の言う事にも一理あるな、としみじみ思う。

そうして発展していった物事は数多あるのだから。


山吹城の城主、刺賀は飢えに苦しむ民衆、家臣たちを見て決断を下すことにした。

「……やはり、ここはもうやるしかあるまい」

「殿……」

家臣たちは驚いて刺賀を見つめる。

「皆、巻き込んで申し訳なかった」

そう言うと、刺賀は奥の間に入っていく。


そして、二通の手紙を書いた。

所謂遺書である。

「殿……、考え直してくだされ!」

「否、もう決めたのだ。すまぬ……」


刺賀は兵を呼び、外にいるであろう義弟の湯惟宗へとこの手紙を渡すよう命じた。

刺賀の自害と引き換えに山吹城の城兵は安芸国吉田郡山城の毛利元就の下へ送還することを要求する手紙である。


湯惟宗より手紙を受け取った晴久はこれを認めた。

「うむ、その願いは聞き入れよう。お主の気持ちはしかと受け取り申した」

「よろしくお願い申しあげる」


刺賀は副将の高畠遠言と共に湯惟宗によって温泉津の海蔵寺に護送され、晴久の派遣した検使の前で切腹した。

山吹城がついに陥落し、尼子の手に落ちたのである。


「ここは退くしかあるまい……」

元就は吉田郡山城へと兵を退く決断を下した。

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