第145話 ズレゆく歴史

本来の歴史と変わってきている……。

悠月はそう思い、不安に感じながらも平静を装う。

「ねえ、悠月」

「どうした、松井」

「もう一度、尼子が襲ってきたら……。そしたら、歴史が正しくなる?」

「ならねえよ。そう簡単な話じゃない」

「そっか……」

「もし、それで戻るって言うならどうせ尼子にここを襲うように陽動しようと思ったんだろ?」

「さすがに無理か」

松井は苦笑いした。


悠月はそんな松井を小突いた。

「……気持ちは分かるけどな」

松井は当初の事を思い出す。

松井自身が、事情も知らずに尼子に加勢して歴史を壊そうとしてしまったことがあったからだ。

その罪悪感に対して償いの意味合いも、提案の中にあった。


村でしばらく、兵士たちの傷を癒すべく滞在する。

「ここの村は良いところだな……」

隆元はしみじみと言った。

「ええ。本当にそうですね」

隆家も同意して頷く。


「……鉱夫の皆も、多少なりと療養はできてると思うけど」

松井は少し心配そうだ。

重症の鉛中毒者は、いまだに空気の澄んでいる集落で療養をさせてもらっている。

医者も村に戻すべきか悩み、村長と集落の長と三人で相談した結果である。


「こちらの空気は澄んでいますからね。もしよろしいのなら、こちらで療養をしていただいても、問題ないのですが」

「その方が回復できるのなら、私としてもそれがよろしいかと。鉱夫は短命だと言いますから、なおの事でしょう」

「長殿、村長、ありがとうございます……!」

医者は深々と頭を下げた。


悠月はある日を待っていた。

刻一刻と、その時は近づく。


「この銀山の要所は山吹城。城主は確か……」

刺賀さすか 長信ながのぶ殿じゃ」

「そう、刺賀長の……って隆元様!」

「山吹城の事じゃろう?」

「え、ええ、まあ。落城したら、この銀山も……って思って」

「その通りじゃな」

隆元は悠月に何か考えがある、と見抜いていた。

「お主はどう見る?」

「籠城が続いていますからね……。兵糧攻めもされているし……」

悠月は入っている情報をまとめようと、筆を出した。

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