第138話 医者
「隆家様! 医者の家を見つけました! ……ですが」
兵の一人がそう言いに来る。
だが、表情は暗い。
「どうした?」
「それが、医者も他の同じような男たちの世話で手いっぱいの様子……、他の医者も今日は近くの村への回診で不在や似た状況でございます」
「それは参ったな……」
「ただのケガであれば、僕だって応急処置くらいはできるけど……、中毒ともなればさすがに医者じゃないと……」
松井は悔しそうに言う。
「そうだよな……」
悠月も暗い顔だ。
「ええんですよ、ワシは……」
男は困ったように笑って言う。
「ワシより若いもんを助けてくだされ」
「あなただって、私よりも若いではありませんか!」
なおこの時、隆家は38~39歳である。
隆家は、家臣の中でも医学知識が多少でもある者を募った。
「私の家は代々薬屋です。少しは役に立てるかもしれませぬ」
「兄が医者でした。役に立つかは分かりませんが、少しなら手伝えるかと」
数人が名乗り出た。
「よし、ならば」
隆家は医者にその家臣たちを助手として派遣する代わりに、男を治療するよう頼むことにした。
「お殿様、絶対にとは保証できませぬが……、可能な限りは手を尽くします。お主、頼むぞ」
「はい、お手伝いさせてください!」
「あのー……」
悠月は申し訳なさそうに声をかける。
「なんじゃ?」
「医学知識は全くないけど、手伝わせてくれないだろうか……?」
松井はその言葉に驚いた。
「悠月……!」
「もちろん構いません。今は一人でも人手が欲しい」
「じゃあ、手伝います!」
松井は頷いて、悠月とともに手伝いをする。
「そこの男の体を拭いてやってくれ」
医者はてきぱきと指示をする。
悠月はあまり医学知識がなくともできる雑用中心に、松井は主にけがの治療を手伝うことになった。
「大変です!」
「どうしたんじゃ!?」
「尼子です……! 尼子軍が……!」
兵はそう言った。
「こんな時に……」
悠月はうんざり顔で言った。
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