第137話 鉱夫

石見銀山の方へと出陣する隆家。

そして、悠月と松井も同行している。


「石見銀山、どんなところだろうな?」

「ギラギラ光ってたりして。銀だけに」

松井は冗談めかして言う。

「鉱山だからといって、それはないなぁ」

隆家は苦笑いしながら突っ込んだ。


途中で、まだ見た目30前くらいの男を見かけた。

「鉱夫さんかな?」

「おい、顔色が悪いぞ! 大丈夫か?」

悠月は先に気が付いた。


「大丈夫じゃ……、ちょっと疲れておるだけじゃ……」

「結構弱ってるな……。隆家さん、何か少しでも食べられるものを分けてあげることは?」

「構わんが……、どうしてこんなに弱っておるのだろう?」

「鉱夫だからだと思います。恐らく、鉛中毒にかかってしまっていると思います」

「鉛中毒?」

「重金属の中毒の一種です。鉛を輩出すれば、恐らく大丈夫だと思うけど……、どうすればいいのか……。僕も悠月も、医学は門外漢だけど……、僕は多少なら知識はあります」

「松井は薬局って言って、薬を売る店で働いているからな」

「なるほど。とりあえず、村に連れて行こう! 医者に診てもらうべきだ」


男に軽くものを食べさせ、村まで馬に乗せていく。

村に着いた時、悠月たちは目を疑った。

「子供がほとんどいないな!」

「独身か夫婦のみ、という家庭ばかりのようだね……。お年寄りもあまり見かけないし」

「元々鉱夫は比較的短命だと言われているんだ……」

男は少し呻きながら答える。


男はぽつりぽつりと話し出す。

「銀錬成術で、灰吹法、というものがあってな……。金や銀を鉱石などからいったん鉛に溶け込ませ、さらにそこから金や銀を抽出する方法じゃ」

「もしかして、それで寿命が短くなったんじゃ……?」

「元々、鉱山は環境も良くない。30まで生きられれば、お頭付きの鯛で盛大に祝うと言えば、わかるかの?」

「30歳で……!」

「それほどまで、鉱夫は短命なんじゃ……。ワシもあと二つ……」


効率的に銀を得られる代わりとなったのが、鉱夫の健康であった。

灰吹法が広まることにより、酸化鉛の粉塵を吸い込んだ作業員は急性または慢性の鉛中毒を発症することが多発していたのである。


そうやら、男は慢性の鉛中毒を発症していたようである。

「ワシも、あと二つ……、二つ生きられるか……」

男はぐったりと馬から滑り落ちそうになる。

「危ない!」

悠月と松井は男を受け止めた。

「早く医者を探せ!」

隆家は家臣たちにそう命じた。

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