第135話 石見銀山

平和な時間はずっと続くわけではなかった。

すぐに元就の元へは、戦の策を請いに来るものが絶えない。

「さすがは戦国の謀り神……」

悠月はそう言って苦笑いするのみであった。


「次はどこへ戦を仕掛けるのだろう?」

隆景と共に吉田郡山城へと来ていた松井はそれとなく悠月に話しかけていた。

「聞いた話だと、銀山ぎんざんだな」

悠月は記憶をたどりながら答える。

「銀山?」

「銀の山だよ。採掘すると銀鉱石、それを加工した銀が採れる……はず……」

「そうなんだ……」

「銀山があるのとないのとで経済的には大違いだからな。元々は大内の資金源でもあったようだけど……」

「今は違うんだ?」

「いや、一応名目上は大内だったはず……。陶が統制を取っていたからな。もっとも、その陶も厳島の戦いで滅亡したけど……」


石見銀山は江戸幕府が天領とするまでは商人の独自権益であり、毛利氏・尼子氏などの諸大名はその産する銀鉱石(後には銀そのもの)を輸送する通行税を徴収していた。


その権利を確保するために銀山のすぐそばに大内氏が山吹城や矢滝城を築いたのである。

もっとも、銀を産する山の方が両城より標高が高いが鉱夫やその家族を殺傷することは不利益になるので、大名はこちらにはあまり手を加えなかったようであるのだが。


石見銀山を確保するにあたり、大きな焦点になったのは山吹城であった。急峻な山頂に構えられた堅城である為、力押しは不可能に近い状態であり、落城させる手段は2つに限られた。


1・城主に有利な条件を提示して降伏させる。

2・兵糧攻めにして降伏させる。


もちろん、毛利方としては戦をいたずらに仕掛けるよりは、城主に有利な条件を提示して降伏させ、手中に収めたいというのが本心であった。

だが、尼子より先に、城主に有利な条件など出せるだろうか?

元就はそこを懸念していた。


兵糧攻めも、後の禍根を残すこととなる。

元就もそう言った観点を踏まえ、兵糧攻めなども避けるべきだと考えていた。

やむを得ない状況となれば、そちらも考えねばなるまい、そう心の内で思ってはいたが。


「父上、よろしいですか?」

「何じゃ、隆景」

「兵糧攻めはすべきではありません。やはり、後に山吹城と禍根を残せば厄介なことになると思われます!」

「うむ、ワシもそれは考えておるよ」

「山吹城の皆や城主にとって、何が有利な条件かは……、難しいですね」

「うむ、そこに困っているところじゃ。金銀などよりも、こちらが有利な条件として差し出せるものは何か、そこから考えねばならんからの」


元就と隆景は考え込んでしまった。

松井と悠月も、どうするべきか一緒に考え始めた。

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