第134話 思いやりとすれ違い

元就の思惑は、なんとか三兄弟には伝わったようである。

二人も、元就への面会は勝手ではなく、兄である隆元を通すようになった。


「兄上―、父上と話があるんじゃが」

「ワシではいかんのか?」

隆元はそう言って元春に怪訝そうな顔をする。

「まあ、兄上でもええけど……」

「……はいはい、父上の方がええんじゃろ?」

隆元は半分拗ねたように言った。


隆元は、弟二人がやはり元就ばかり頼るのを不満に思っていた。

だが、実際に言葉で言おうと考えると黙りこくってしまう。

「あやつらの事じゃ、考えあっての物だろう……」

そう思うことで、もやもやとした心を抑えようとしていた。


元就は元春の相談事を聞いた。

「ふむ……、そういうことか」

「父上ならどうするかなー、って思って聞きに来たんじゃ」

「じゃが、それなら隆元でも良かろう?」

「兄上は毛利家の長男じゃろ? 政務に忙しそうだったし、ワシらの悩みで余計疲労してはいかんじゃろうし」

「左様か。なら、ワシならこうするかの」

元就はそう言って自分の答えを教える。


元春が自分の抱えている問題を解決できたかは別としつつ、相談を終えて部屋を出る。

「兄上、ありがとうなー!」

「泊まっていかんのか?」

「新庄を待たせるのも気の毒じゃ。それに、今日は姉上もおるから、新庄に怒られる」

「さようか」

というのも、元春の妻である新庄局は、隆元の妹であり、元春の姉である五龍局と非常に仲が悪いのである……。

もっとも、二人とも隆元の妻である尾崎局とは仲が良いほうではあるのだが、尾崎局を板挟みするわけにはいかない。


元春は馬を走らせ、居城である日野山城へと戻っていった。

城に着いたのは夜中であった。

「お帰りなさいませ」

「まだ起きとったんか?」

「ええ、寝付けなくて」

新庄は笑顔で言う。

「それは心配をかけてしまったのう。すまんかった」

「無事なお帰りで、嬉しゅうございます」

新庄はそう言って、奥の間へと入っていった。

「本当に帰りを待っておっただけじゃろうな……」

元春はなんだか照れるような、嬉しいような、複雑な気持ちになった。

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